ひな祭りは、毎年3月3日に女の子の健やかな成長と幸せを祈る日本の伝統行事です。桃の節句とも呼ばれ、雛人形を飾り、ちらし寿司やはまぐりのお吸い物、ひなあられなどの行事食でお祝いします。この記事では、ひな祭りの由来から雛人形の飾り方・しまう時期、食べ物の意味、初節句のお祝いまでわかりやすく解説します。
CHAPTER 01ひな祭りとは?意味と由来
ひな祭りの起源は、古代中国の「上巳(じょうし)の節句」にさかのぼります。3月最初の巳の日に水辺で身を清め、穢れを祓う行事が行われていました。中国ではこの日に「曲水の宴」(踏青)といって水辺で草を踏み、桃酒を酌み交わして穢れを祓う風習がありました。これが日本に伝わり、紙や草で作った人形(ひとがた)に自分の穢れを移して川に流す「流し雛」の風習と結びつきました。
平安時代には、貴族の子女の間で紙の人形を使った「ひいな遊び」(おままごとのような遊び)が流行しました。また、貴族の子どもたちには無事に育つようにと枕元に人形を飾る習わしがあり、3歳くらいまで飾った後に辻に捨てたり川に流したりしました。この「ひいな遊び」と上巳の節句の祓いが融合し、やがて人形を飾って女の子の幸せを祈る現在のひな祭りの形が生まれました。江戸時代に入ると、幕府が五節句のひとつとして3月3日を「桃の節句」と定め、庶民にも広く普及しました。
INFO / なぜ「桃の節句」と呼ばれるのか
旧暦の3月3日は現在の4月上旬にあたり、ちょうど桃の花が咲く時期でした。桃は古来より邪気を払う力があるとされ、魔除けの象徴です。中国の故事「桃源郷」にも見られるように、桃には不老長寿の力があると信じられていたことから、女の子の健康と長寿を祈るこの節句に桃が結びつきました。
CHAPTER 02ひな祭りはいつ?旧暦との違い
ひな祭りは新暦の3月3日に行うのが全国的に一般的です。ただし、一部の地域では旧暦や月遅れの4月3日にひな祭りを行います。北関東、東北、北陸、山陰など寒冷地に多く見られ、3月上旬はまだ寒さが厳しいことや、旧暦の暦を大切にする伝統が理由です。
3月3日
ひな祭りの日
桃の節句
別名
五節句
のひとつ

CHAPTER 03雛人形の飾り方と段飾りの意味
雛人形にはさまざまな種類がありますが、最も格式が高いのが七段飾りです。十五人の人形と道具類が段々に並ぶ豪華な飾りで、宮中の婚礼の様子を模しています。現代では住宅事情に合わせて五段飾りや三段飾り、親王飾り(男雛と女雛の二人だけ)を選ぶ家庭が増えています。
| 段 | 人形・道具 | 役割・意味 |
|---|---|---|
| 一段目 | お内裏様(男雛・女雛) | 天皇・皇后を表す。最も格の高い位置に飾る |
| 二段目 | 三人官女 | 宮中に仕える女官。お酒を注ぐ役割 |
| 三段目 | 五人囃子 | 能楽の演奏者。太鼓・大鼓・小鼓・笛・謡の5人 |
| 四段目 | 随身(右大臣・左大臣) | 宮中の警護役。向かって右が若い右大臣、左が年配の左大臣 |
| 五段目 | 仕丁(三人上戸) | 宮中の雑用係。怒り・泣き・笑いの三つの表情 |
| 六段目 | 嫁入り道具 | 箪笥・長持・鏡台など。嫁入り支度の象徴 |
| 七段目 | 御所車・御駕籠 | お出かけ用の乗り物。牛車と駕籠 |
パ
新米パパ / 2歳児のパパ
男雛と女雛の左右の配置はどちらが正しいのですか?地域で違うと聞いたことがあります。
博
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
関東では向かって左に男雛、右に女雛を置く「現代式」が主流です。これは西洋の国際儀礼に合わせたもので、大正天皇の即位式以降に広まりました。京都を中心とした関西では逆に、向かって右に男雛を置く「京雛」の伝統が残っています。どちらも正しい飾り方ですよ。
CHAPTER 04雛人形を飾る時期・しまう時期
雛人形を飾り始める時期は立春(りっしゅん)(2月4日頃)から2月中旬が目安です。節分で邪気を払った翌日の立春から飾り始めるのが縁起がよいとされています。遅くともひな祭りの1週間前までには飾りましょう。ひな祭り前日に慌てて飾るのは「一夜飾り」と呼ばれ、縁起が悪いとされています。
しまう時期は、ひな祭りが終わったらできるだけ早く片付けるのがよいとされています。「雛人形をしまうのが遅れると婚期が遅れる」という言い伝えは有名ですが、これは「片付けをきちんとできる子に育ってほしい」というしつけの意味が込められた俗説です。天気のよい乾燥した日を選んで丁寧にしまいましょう。湿気はカビや虫食いの原因になります。
TIP / 雛人形の保管のコツ
しまう際は人形の顔を柔らかい紙で包み、防虫剤(人形用)を入れて収納します。防虫剤は1種類のみ使用し、人形に直接触れないよう注意してください。押入れの上段など、湿気の少ない高い場所に保管するのがおすすめです。年に一度、秋の乾燥した日に虫干しをすると長持ちします。
CHAPTER 05ひな祭りの食べ物と込められた意味
ひな祭りには縁起のよい食べ物を用意してお祝いします。それぞれの食べ物には、女の子の幸せと健康を願う意味が込められています。

| 食べ物 | 意味・由来 |
|---|---|
| ちらし寿司 | 海老(長寿)、れんこん(見通しがよい)、豆(健康)など縁起のよい具材を彩りよく盛る |
| はまぐりのお吸い物 | はまぐりの貝殻は対になった貝としかぴったり合わないことから、良縁・夫婦円満の象徴 |
| 菱餅(ひしもち) | 緑(健康・長寿)、白(清浄)、桃色(魔除け)の3色。雪の下から新芽が芽吹き、桃の花が咲く春の情景 |
| ひなあられ | 菱餅を砕いて作ったのが起源。桃・緑・黄・白の4色は四季を表す(関東は甘い、関西は醤油味) |
| 白酒・甘酒 | もともとは桃の花を浮かべた「桃花酒」。江戸時代に白酒が定着。子供には甘酒を |
| 桜餅 | 桜の葉の香りが春を感じさせる和菓子。関東は長命寺、関西は道明寺 |
パ
新米パパ / 2歳児のパパ
ちらし寿司の具材にも一つひとつ意味があるのですね。2歳の娘にはまだ生ものは早いのですが、何か工夫はありますか?
博
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
小さなお子さんには、錦糸卵やいくら、茹でた海老(えび)を使ったちらし寿司がおすすめです。酢飯を薄味にしたり、手まり寿司にしたりすると食べやすくなりますよ。ケーキ型で盛り付ける「ケーキ寿司」も見た目が華やかで喜ばれます。
CHAPTER 06ひな祭りの歌「うれしいひなまつり」
「あかりをつけましょ ぼんぼりに お花をあげましょ 桃の花」で始まる「うれしいひなまつり」は、1936年(昭和11年)にサトウハチローが作詞、河村光陽が作曲した童謡です。ひな祭りを代表する歌として80年以上にわたり歌い継がれています。
実はこの歌には歌詞の間違いがあることで知られています。2番の「お内裏様とお雛様 二人ならんで すまし顔」という歌詞では、男雛を「お内裏様」、女雛を「お雛様」と呼んでいますが、正しくは「内裏雛(だいりびな)」は男雛と女雛の一対を指す言葉です。また「お雛様」も雛人形全体を指す言葉で、女雛だけを指す言葉ではありません。作詞者のサトウハチロー自身もこの間違いを気にしていたと伝えられています。
CHAPTER 07初節句のお祝い ─ 女の子の初めてのひな祭り
女の子が生まれて初めて迎えるひな祭りを「初節句」と呼びます。生後初めての3月3日がこれにあたりますが、生まれたばかりで母子の体調が落ち着いていない場合は、翌年に延期しても構いません。
初節句では、母方の祖父母が雛人形を贈るのが伝統的な慣習です。現在では両家で相談して購入したり、費用を折半したりする家庭も増えています。お祝いの金額は祖父母の場合5万〜30万円(雛人形代を含む)、親戚やきょうだいからは5,000〜1万円が目安です。
初節句当日は、両家の祖父母を招いて自宅や料亭でお祝いの食事会を開くのが一般的です。ちらし寿司やはまぐりのお吸い物でもてなし、赤ちゃんの健やかな成長を願います。お祝いをいただいた方には、内祝いとして3月中にお返しを贈りましょう。紅白の角砂糖やひなあられ、名入れのお菓子などが定番です。
ひな祭りの食べ物のなかでも、とりわけ由緒あるのが菱餅(ひしもち)と白酒(しろざけ)です。菱餅の三色にはそれぞれ深い意味があり、桃色はクチナシの実で着色して魔除けを、白色は菱の実を混ぜ込んで子孫繁栄と長寿を、緑色はヨモギを練り込んで厄除けと健康を象徴しています。三色を重ねることで「雪の下から新芽が萌え出し、桃の花が咲き誇る春の情景」を表現しており、菱形は心臓の形を模して災厄を除き長寿を願う意味があると伝えられています。白酒はもともと桃花酒(とうかしゅ)が起源で、桃の花びらを清酒に浸した薬酒を上巳の節句に飲む中国の風習が日本に伝わったものです。江戸時代に入ると甘みのある白酒が人気を博し、桃花酒に代わって定着しました。
ひな祭りと深い関わりを持つ行事に「流し雛(ながしびな)」があります。流し雛は、紙や藁で作った人形(ひとがた)に自分の穢れや災厄を移し、川や海に流して身代わりにする祓えの儀式が原型です。平安時代には宮中の上巳の祓えとして行われていたこの風習は、現在も各地で受け継がれています。鳥取県の用瀬(もちがせ)では旧暦3月3日に千代川へ紙雛を流す行事が続き、和歌山県の淡嶋神社では毎年3月3日に数百体の雛人形を白木の小舟に乗せて海へ送り出す「雛流し」が執り行われます。流し雛は「飾る雛」へと発展する以前の、ひな祭りの最も古い姿を今に伝える貴重な風習です。
ひな祭りに関連する伝統行事として忘れてはならないのが「十三参り(じゅうさんまいり)」です。十三参りは、数え年で13歳になった子ども(とくに女の子)が、旧暦3月13日(現在は4月13日前後)に虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)に智恵と福徳を授けてもらうためにお参りする行事で、「智恵もらい」とも呼ばれます。京都の嵐山・法輪寺が十三参りの発祥として知られ、参拝の帰り道に渡月橋を渡りきるまで振り返ってはいけないという言い伝えがあります。振り返ると授かった智恵が失われるとされるためです。ひな祭りの時期と重なることから、桃の節句から十三参りまでの一連の行事を通じて、女の子の成長の節目を祝う地域も少なくありません。
CHAPTER 08ひな祭りの歴史を深掘り ─ 平安時代から現代まで
平安時代の「ひいな遊び」と流し雛
ひな祭りの起源をたどると、平安時代の貴族文化にたどり着きます。当時の貴族の子女たちは、紙や布で作った小さな人形を使って「ひいな遊び」を楽しんでいました。「ひいな」とは「小さくてかわいらしいもの」を意味する古語で、現在の「おままごと」に近い遊びでした。源氏物語にも、紫の上が幼い頃にひいな遊びをする場面が描かれています。
一方、上巳の節句には紙や草で人の形をした「形代(かたしろ)」を作り、自分の体をなでて穢れを移し、川や海に流す「流し雛」の風習がありました。この祓いの行事と貴族の遊びが融合して、人形を飾ってお祝いする現在のひな祭りの原型が生まれたと考えられています。
室町時代から江戸時代への発展
室町時代になると、上巳の節句は3月3日に固定され、宮中や武家の間で盛大に祝われるようになりました。この頃の人形はまだ素朴な立ち雛(たちびな)が主流でしたが、座り姿の人形も徐々に作られるようになっていきます。
江戸時代に入ると、幕府が五節句を公式行事として制定し、3月3日は「桃の節句」として広く認知されるようになりました。経済の発展とともに人形作りの技術も飛躍的に向上し、精巧で豪華な雛人形が作られるようになりました。大名家では嫁入り道具として立派な雛人形を持参する風習が生まれ、庶民の間でも娘の幸せを祈って雛人形を飾る文化が定着していきました。
INFO / 流し雛の風習は今も残っている
鳥取県用瀬町(もちがせちょう)の「流しびな」は、旧暦の3月3日に千代川に紙雛を流す行事で、平安時代の風習を今に伝えています。和歌山県の淡嶋神社では毎年3月3日に約500体の雛人形を小舟に乗せて海に送り出す「雛流し」が行われ、全国から参拝者が訪れます。
CHAPTER 09七段飾りの各段を詳しく解説
一段目:お内裏様(男雛と女雛)
最上段に飾られるのがお内裏様です。天皇と皇后の婚礼の姿を模しており、雛飾りの中で最も格の高い人形です。男雛は束帯(そくたい)と呼ばれる正装を身にまとい、手には笏(しゃく)を持っています。女雛は十二単(じゅうにひとえ)を着て、手には檜扇(ひおうぎ)を持っています。後ろには金屏風を立て、両脇にぼんぼり(雪洞)を配置します。
二段目:三人官女
三人官女は宮中に仕える女官で、お内裏様にお酒を注ぐ役割を担います。中央の官女は座り姿で三方(さんぼう)を持ち、両脇の官女は立ち姿で、一人が長柄の銚子(ちょうし)、もう一人が加えの銚子を持っています。中央の官女は眉を剃り、お歯黒をつけた既婚者の姿をしていることが多く、両脇は未婚の若い女官です。
三段目:五人囃子
五人囃子は能楽の楽器を演奏する少年たちです。向かって左から太鼓(たいこ)・大鼓(おおつづみ)・小鼓(こつづみ)・笛・謡(うたい)の順に並べます。囃子は婚礼の宴を盛り上げる音楽隊で、元服前の少年の姿をしています。並べ方のコツは「音の大きい楽器から左に順に並べる」と覚えるとわかりやすいです。
四段目以降:随身・仕丁・嫁入り道具
四段目の随身(ずいじん)は右大臣と左大臣で、宮中を警護する武官です。向かって右側に若い右大臣、左側に年配の左大臣を置きます。五段目の仕丁(しちょう)は宮中の雑用を担当する三人で、怒り・泣き・笑いという三つの表情を持つため「三人上戸」とも呼ばれます。六段目には箪笥・長持・針箱・鏡台・火鉢などの嫁入り道具、七段目には御所車と御駕籠が飾られます。
パ
新米パパ
七段飾りは見事ですが、飾るスペースがなかなか確保できません。コンパクトな飾り方はありますか?
博
カゾイロ博士
最近は住宅事情に合わせて親王飾り(男雛と女雛のみ)やケース入り飾り、収納飾りなどコンパクトな雛人形が主流になっています。場所を取らず出し入れも楽なので、マンション住まいのご家庭にもぴったりですよ。
CHAPTER 10ちらし寿司をおいしく作るコツ
ひな祭りのちらし寿司は、彩りの美しさと縁起のよい具材がポイントです。家庭で作る際のコツをご紹介しましょう。
酢飯のポイント
ちらし寿司の基本は酢飯です。炊きたてのごはんに合わせ酢(酢・砂糖・塩)を回しかけ、しゃもじで切るように混ぜます。うちわで扇ぎながら混ぜると、余分な水分が飛んでツヤのある酢飯に仕上がります。ごはんが熱いうちに合わせ酢を加えることが大切で、冷めてからでは酢がなじみにくくなります。小さなお子さんが食べる場合は、酢と砂糖を控えめにしたマイルドな味付けにしましょう。
縁起のよい具材とその意味
ちらし寿司の具材にはそれぞれ縁起のよい意味があります。海老は腰が曲がるまで長生きすることを表す長寿の象徴。れんこんは穴が開いていることから先の見通しがよいことを意味します。豆は健康でまめに働けるように、錦糸卵は黄色が金を表し財宝の象徴です。いくらやサーモンの赤は華やかさと魔除けを兼ねています。
TIP / 小さなお子さん向けのちらし寿司アレンジ
2歳以下のお子さんには生ものは避け、茹でた海老・錦糸卵・茹でたにんじん(花型に抜く)・きぬさやなどで彩りましょう。ケーキ型に酢飯を詰めてひっくり返し、上にトッピングを飾る「ケーキ寿司」にすると、見た目も華やかでお祝い感がアップします。
ひなあられの意味と関東・関西の違い
ひなあられは、ひな祭りに欠かせないお菓子です。その起源は、菱餅(ひしもち)を砕いて炒ったものとされています。江戸時代には「雛の国見せ」といって、雛人形を持って野外に出かける風習があり、その際の携帯食として菱餅を砕いたあられが作られるようになりました。
ひなあられの色にも意味があります。桃色は生命(春)、緑色は健康(夏)、黄色は収穫(秋)、白色は純潔(冬)を表し、4色で四季を象徴しています。これは「一年を通じて健やかに過ごせるように」という願いが込められたものです。三色の場合は、赤が魔除け、白が清浄、緑が健康を意味し、菱餅と同じ配色になります。
実はひなあられには関東風と関西風があり、味も形もまったく異なります。関東のひなあられはお米を爆ぜさせたポン菓子に砂糖をまぶした甘いタイプで、軽い食感が特徴です。一方、関西のひなあられはもち米から作ったおかきで、醤油味や塩味のしょっぱいタイプが主流です。直径も関東は1cmほどの小粒ですが、関西は2〜3cmほどの大粒です。お住まいの地域のひなあられを食べ比べてみるのも面白いですよ。
全国のひな祭り ─ 地域ごとの特色
ひな祭りの祝い方は地域によってさまざまな違いがあります。各地に伝わるユニークな風習をご紹介します。
| 地域 | 行事・特色 | 見どころ |
|---|---|---|
| 千葉県勝浦市 | ビッグひな祭り | 約30,000体の雛人形が街中に飾られる圧巻の景色 |
| 徳島県勝浦町 | ビッグひな祭り | 勝浦市と姉妹提携。約30,000体の雛人形が並ぶ |
| 山形県河北町 | ひな市 | 江戸時代から続く雛人形の市。古い町並みに雛飾りが並ぶ |
| 静岡県東伊豆町 | つるし飾りまつり | 「雛のつるし飾り」発祥の地。約13,000個の飾りが圧巻 |
| 福岡県柳川市 | さげもんめぐり | 柳川まり等の「さげもん」を飾る。水郷の街並みとの調和が美しい |
| 鳥取県用瀬町 | 流しびな | 千代川に紙雛を流す。平安時代の流し雛の風習を今に伝える |
静岡県東伊豆町稲取(いなとり)の「つるし飾り」は、日本三大つるし飾りの一つに数えられます。つるし飾りとは、小さな布製の人形や動物を紐でつなげて吊るすもので、一つひとつに意味があります。たとえばうさぎは素直な子に育つように、金魚は赤い色で魔除け、三角は薬袋で病気にならないようにという願いが込められています。
パ
新米パパ
つるし飾りは初めて知りました。手作りできるものですか?
博
カゾイロ博士
はい、手芸が好きな方なら手作りも可能です。ちりめん布で小さなモチーフを縫い、紐に通していきます。手芸キットも市販されているので、初心者の方でも挑戦しやすいですよ。お子さんの初節句に手作りのつるし飾りを贈るのも素敵ですね。
CHAPTER 11現代の雛人形 ─ コンパクト化の傾向と選び方
かつては七段飾りや五段飾りが主流だった雛人形ですが、現代では住宅事情やライフスタイルの変化により、コンパクトな雛人形が人気を集めています。選ぶ際のポイントを確認しましょう。
コンパクト雛人形の種類
親王飾りは男雛と女雛の二人だけの飾りで、最も省スペースです。コンパクトでありながらも衣装の美しさを楽しめるのが魅力です。ケース飾りはガラスやアクリルのケースに入った飾りで、ほこりを被る心配がなく、出し入れが簡単です。収納飾りは台座が収納箱を兼ねており、シーズンオフの保管場所にも困りません。
木目込み人形(きめこみにんぎょう)も人気です。桐塑(とうそ)で作った胴体の溝に布地を押し込んで(木目込んで)衣装を着せる技法で、コロンとした丸みのあるかわいらしい顔立ちが特徴です。従来の衣装着人形に比べて小さく作れるため、マンションなどの限られたスペースにも飾りやすいと好評です。
雛人形を選ぶときのチェックポイント
- 飾るスペースを事前に測る ─ 幅・奥行き・高さの三方向を確認。飾り台やぼんぼりの高さも考慮する
- お顔の表情で選ぶ ─ 雛人形の顔は職人の個性が出る部分。優しい表情、凛とした表情など好みに合うものを選ぶ
- 衣装の素材と柄を確認 ─ 正絹(しょうけん)は上品な光沢があり高級感がある。化繊は手入れが楽でリーズナブル
- 収納のしやすさも重要 ─ 11か月は収納している計算。収納箱のサイズや保管場所も事前に確認しておく
- 予算は3万円〜30万円が中心帯 ─ 親王飾りで3〜10万円、三段飾りで10〜20万円、七段飾りで20万円以上が目安
雛人形の正しい保管方法
雛人形を美しい状態で長く保つためには、しまい方と保管方法が非常に重要です。毎年のお手入れを怠ると、カビや虫食い、変色の原因になります。
- 01天気のよい乾燥した日を選んでしまう湿度の高い日にしまうとカビの原因になります。晴れて湿度の低い日を選びましょう。3月中旬までにしまうのが理想です。
- 02人形の顔を柔らかい紙(薄葉紙)で包む顔は雛人形の中で最もデリケートな部分です。柔らかい和紙や薄葉紙で優しく包み、他の部品とぶつからないようにします。
- 03衣装のほこりを毛ばたきで払う細かいほこりは虫食いの原因になります。柔らかい毛ばたきで丁寧にほこりを払いましょう。手の脂がつかないよう、手袋をして作業するのがベストです。
- 04防虫剤は人形専用のものを1種類だけ使うナフタリンや樟脳など異なる種類の防虫剤を混ぜると化学反応で人形を傷める可能性があります。人形用の防虫剤を1種類だけ、人形に直接触れないように入れましょう。
- 05収納場所は押入れの上段など湿気の少ない高い場所床下や押入れの下段は湿気がたまりやすいため避けましょう。クローゼットの上棚や押入れの天袋が最適です。
TIP / 年に一度の虫干しで長持ちさせよう
秋(10月頃)の天気がよく乾燥した日に、箱から出して風通しのよい日陰に数時間置く「虫干し」を行いましょう。直射日光は人形の衣装を褪色させるため、必ず日陰で行います。虫干しの際に人形の状態を確認し、異常があれば早めに人形店に相談することをおすすめします。
現代のひな祭りの楽しみ方
ひな祭りは女の子の行事と思われがちですが、最近は性別に関係なく、春の訪れを祝う家族行事として楽しむご家庭も増えています。お子さまの性別にかかわらず、ちらし寿司やひなあられを囲んで家族で春を感じるひとときを過ごすのも素敵です。
ひな祭りパーティーとして、お友達を招いてお祝いするご家庭も増えています。ピンクや白を基調としたテーブルコーディネートに、ひし餅カラーの三色ゼリーやひなあられ、いちごのデザートを並べると、華やかな春のパーティーが完成します。
雛人形を飾るスペースがないマンション住まいの方には、つるし雛(さげもん)がおすすめです。縮緬(ちりめん)で作った小さな人形を吊るして飾るスタイルで、場所を取らずに華やかな雰囲気を演出できます。手作りキットも販売されており、親子で一緒に作る楽しみもあります。
ひな祭りの翌日にすぐ雛人形を片付けないと「お嫁に行けない」という言い伝えがありますが、これは「片付けがきちんとできる子に育ってほしい」というしつけの意味が込められたもので、実際に婚期が遅れるわけではありません。天気が良く乾燥した日を選んで、丁寧にしまうのが人形にとっても良い方法です。
ひな祭りは千年以上の歴史を持つ日本の伝統行事です。時代とともに形は変わっても、子どもの健やかな成長を願う親の想いは変わりません。豪華な雛人形がなくても、手作りの折り紙雛でも、お子さまの幸せを祈る気持ちがあれば立派なひな祭りです。
3月3日には家族でちらし寿司を囲み、ひなあられをつまみながら、春の訪れを感じる穏やかなひとときをお過ごしください。お子さまの健やかな成長と幸せを心からお祈りしています。
お子さまが生まれて初めて迎えるひな祭りは「初節句」として特にお祝いします。両家の祖父母を招いて食事会を開いたり、記念写真を撮影したりするご家庭が多いです。雛人形は母方の祖父母が贈るのが伝統的ですが、最近は両家で相談して購入するケースも一般的になっています。
ひな祭りの時期になると全国各地で雛祭りイベントが開催されます。千葉県勝浦市の「かつうらビッグひな祭り」では約3万体もの雛人形が街中に飾られ、圧巻の光景が広がります。山形県河北町の「谷地ひなまつり」や静岡県東伊豆町の「雛のつるし飾り祭り」も全国的に有名です。家族でこうしたイベントに出かけるのも、ひな祭りの楽しみ方のひとつです。
ひな祭りに飾る桃の花には、邪気を払い長寿をもたらす力があるとされています。桃の節句という別名も、この桃の花に由来しています。花屋やスーパーで手軽に購入できるので、雛人形と一緒に飾って春の雰囲気を楽しみましょう。ピンクの桃の花が部屋を華やかに彩り、お祝いムードを一層盛り上げてくれます。
ひな祭りを通じて、お子さまに日本の伝統文化や季節の行事の大切さを伝えていきましょう。毎年繰り返すことで、お子さまの中に「春が来たらひな祭り」という季節感が自然と根付いていきます。やがてお子さまが大人になった時、家族で過ごしたひな祭りの思い出が心の支えになってくれることでしょう。
CHAPTER 12上巳の祓えと流し雛 ─ ひな祭りの原点をたどる
ひな祭りの原点は、古代中国の「上巳の節句」にあります。上巳とは3月最初の巳(み)の日を指し、この日に水辺で身を清めて穢れを祓う行事が行われていました。日本に伝わった後、平安時代には紙や藁で作った人形(ひとがた)に自分の穢れを移し、川に流して災厄を除く「上巳の祓え(じょうしのはらえ)」として定着しました。この祓えの風習が「流し雛」の原型です。
流し雛の風習は、現在でもいくつかの地域で大切に受け継がれています。鳥取県の用瀬(もちがせ)では旧暦3月3日に千代川へ紙雛を流す行事が続いており、和歌山県の淡嶋神社では毎年3月3日に約500体の雛人形を小舟に乗せて海に送り出す「雛流し」が行われます。また京都の下鴨神社でも、境内を流れる御手洗川(みたらしがわ)に紙雛を流す流し雛の神事が毎年執り行われ、平安時代の祓えの形を今に伝えています。
INFO / 「ひいな遊び」と祓えの融合
平安時代の貴族の子女たちは、紙や布の人形で遊ぶ「ひいな遊び」を楽しんでいました。「ひいな」は「小さくてかわいらしいもの」を意味する古語です。当初は純粋な遊びであり行事ではありませんでしたが、室町時代から江戸時代にかけて上巳の祓えと合流し、人形を飾って女の子の幸せを祈る「雛祭り」の形が生まれました。
源氏物語・紫式部日記に見る「ひいな遊び」
ひいな遊びは平安文学にもその姿を残しています。源氏物語には、幼い紫の上が雛遊びに夢中になる場面が描かれており、当時の貴族の子女にとって身近な遊びであったことがわかります。また紫式部日記にも雛遊びの記録が見られ、宮中や貴族の邸宅で人形を使った遊びが日常的に行われていたことが裏付けられています。
ひいな遊びはもとは貴族の子女の「おままごと」であり、上巳の祓えと結びついて雛祭りへと発展したのは室町から江戸時代のことである。
雛人形の変遷 ─ 立雛から段飾りへ
現在の精巧な雛人形に至るまでには、長い歴史のなかで姿形が大きく変化してきました。最も古い形は立雛(たちびな)と呼ばれるもので、紙で作った男女一対の人形を立たせた素朴なつくりでした。室町時代以降になると座った姿の座り雛が登場し、人形の造形がより精巧になっていきます。
江戸時代に入ると庶民にもひな祭りが広まり、段の上に複数の人形や道具を並べる段飾りが発展しました。経済の成長とともに人形師の技術も飛躍的に向上し、時代ごとに特色ある雛人形が生まれています。
| 種類 | 時代 | 特徴 |
|---|---|---|
| 立雛(たちびな) | 平安〜室町時代 | 最も古い形。紙で作った男女一対の人形を立たせたもの |
| 座り雛 | 室町時代以降 | 座った姿の人形。造形がより精緻になる |
| 段飾り | 江戸時代 | 庶民に広まり、複数段に人形と道具を並べる豪華な飾りが発展 |
| 享保雛(きょうほうびな) | 享保年間(1716〜1736年) | 面長で大型の人形。享保年間に流行し、堂々とした風格が特徴 |
| 古今雛(こきんびな) | 明和年間(1764〜1772年) | 目にガラス玉を使用。写実的な表情で人気を博した |
パ
新米パパ / 2歳児のパパ
享保雛や古今雛など、時代によって人形の姿がまったく違うのですね。今の雛人形はどの流れを受け継いでいるのですか?
博
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
現代の雛人形は、古今雛の流れを汲んでいるものが多いです。目にガラス玉を入れて生き生きとした表情を出す技法は古今雛から受け継がれたものです。一方で、伝統的な立雛のシンプルな美しさも見直されており、現代作家による新しい立雛も人気がありますよ。
内裏雛の左右配置 ─ 京都式と関東式の違い
雛人形を飾るとき、男雛と女雛をどちらに置くかは地域によって異なります。これには日本の宮中儀礼と近代の国際儀礼が深く関わっています。
- 京都式(古式)
- 向かって右に男雛、左に女雛を置く配置。日本の伝統的な宮中儀礼では「左が上座」とされ、天皇から見て左(=向かって右)が上位であることに基づく
- 関東式(現代式)
- 向かって左に男雛、右に女雛を置く配置。西洋の国際儀礼(右上位)に合わせたもので、大正天皇の即位以降に広まった
この配置が変わる大きなきっかけとなったのは、昭和天皇の即位の礼(1928年・昭和3年)です。このとき天皇が皇后の右側(向かって左)に立たれたことで、西洋式の国際儀礼に倣った配置が公式なものとして認識されるようになりました。以降、関東を中心に向かって左に男雛を置く現代式が主流となりましたが、京都をはじめとする関西地方では古式の配置を守り続けている家庭や人形店が今も多く残っています。
TIP / 「お内裏さま」は男雛だけを指す言葉ではない
童謡「うれしいひなまつり」の歌詞「お内裏様とお雛様」の影響で、男雛=お内裏様、女雛=お雛様と思われがちですが、実は「お内裏さま」は男雛と女雛の両方(内裏雛一対)を指す言葉です。「お雛さま」も雛人形全体を指す言葉であり、女雛だけを指すものではありません。正しくは男雛(おびな)・女雛(めびな)と呼びます。
パ
新米パパ / 2歳児のパパ
「お内裏さま」が男雛だけの呼び名だとずっと思っていました。京都式と関東式、どちらで飾っても間違いではないのですね。
博
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
そのとおりです。購入した人形店に確認するのも良い方法ですが、京都式・関東式のどちらで飾ってもまったく問題ありません。大切なのは、お子さまの健やかな成長を願う気持ちですよ。
CHAPTER 13ひな祭りに関するよくある質問
A.
伝統的には母方の祖父母が贈りますが、現在では両家で話し合って決めるケースが増えています。最近ではパパ・ママが自分たちで選ぶことも一般的です。大切なのは赤ちゃんの幸せを願う気持ちです。
A.
これは俗説であり、根拠はありません。「片付けをきちんとしましょう」というしつけの意味から生まれた言い伝えです。ただし、湿気やほこりを避けるため、天気のよい日に早めにしまうことをおすすめします。
A.
雛人形は本来、持ち主の穢れを引き受ける身代わりのため、一人にひとつが理想とされています。ただしスペースや予算の都合もあるので、姉妹で共有したり、小さな市松人形やつるし雛を追加したりする形でも問題ありません。
A.
もちろんです。ひな祭りは春の訪れを祝う行事でもあるので、ちらし寿司やひなあられで季節を楽しむのは素敵なことです。男の子の節句は5月5日の端午の節句ですが、3月3日に春のお祝いをしても構いません。
A.
明確な決まりはありません。昔は嫁入り道具として持参し、結婚後も飾り続ける家庭が多くありました。現在では成人まで、あるいは結婚するまで飾るのが一般的です。大人になっても季節の飾りとして楽しむ方も増えています。大切なのは感謝の気持ちで飾ることです。
A.
雛人形は子供の身代わりとして穢れを引き受けてくれた存在です。処分する際は、神社やお寺で行われる「人形供養」に出すのが最も丁寧な方法です。全国各地の神社仏閣で人形供養祭が行われており、郵送で受け付けているところもあります。
A.
もちろんです。ひな祭りは女の子の行事ですが、家族みんなでお祝いすることに意味があります。ちらし寿司やひなあられを家族全員で楽しみ、春の訪れを一緒にお祝いしましょう。男の子の節句である端午の節句(5月5日)にも、女の子が参加するのは自然なことです。
CHAPTER 14まとめ
ひな祭りは、女の子の健やかな成長と幸せを願う日本の美しい伝統行事です。3月3日には雛人形を飾り、ちらし寿司やはまぐりのお吸い物など縁起のよい食べ物で家族のお祝いを。初節句を迎える赤ちゃんがいるご家庭は、記念写真を撮って一生の思い出を残しましょう。雛人形は立春を目安に飾り始め、ひな祭りが過ぎたら天気のよい日に早めにしまうのがポイントです。

