春分(しゅんぶん)の日は、「自然をたたえ、生物をいつくしむ」ことを趣旨とする国民の祝日です。2026年は3月20日にあたり、太陽が真東から昇って真西に沈むこの日は、昼と夜の長さがほぼ等しくなります。お彼岸の中日でもあり、ぼた餅をお供えして先祖を敬う風習が全国に根づいています。この記事では、春分の日の天文学的な意味から、彼岸の仏教的な由来、お墓参りや仏壇の作法まで詳しく解説します。
CHAPTER 01春分の日とは?二十四節気(にじゅうしせっき)と天文学的な意味
春分は二十四節気では第4番目の節気にあたり、太陽の黄経が0度に達する瞬間を含む日と定められています。国立天文台が毎年2月に翌年の日付を官報で発表するため、年によって3月20日または21日になります。
天文学的には昼夜の長さが完全に等しいわけではなく、実際には昼がやや長くなっています。これは大気の屈折によって日の出が早く、日の入りが遅く観測されるためです。とはいえ、この日を境に日照時間が目に見えて伸び始め、春の暖かさが本格的に感じられるようになります。
3月20日頃
春分の日の時期
昼夜ほぼ等分
昼と夜の長さがほぼ同じ
7日間
春分を中日とするお彼岸の期間

CHAPTER 02国民の祝日としての制定経緯
春分の日が国民の祝日となったのは1948年(昭和23年)のことです。この年に公布・施行された「国民の祝日に関する法律」によって、「自然をたたえ、生物をいつくしむ」日として制定されました。
それ以前は、歴代天皇の霊を祀る宮中祭祀「春季皇霊祭」が行われる日として祝日に定められていました。戦後の祝日法制定にあたり、宗教色を排した趣旨に改められましたが、お彼岸に先祖を供養するという民間の風習はそのまま受け継がれています。
INFO / 春分の日の趣旨
国民の祝日に関する法律では「自然をたたえ、生物をいつくしむ」と定められています。秋分(しゅうぶん)の日の「祖先をうやまい、なくなった人々をしのぶ」と対になる趣旨で、春は自然への感謝、秋は先祖への感謝がそれぞれ強調されています。
CHAPTER 03お彼岸と仏教の教え ― 此岸と彼岸の意味
春分の日はお彼岸の中日にあたり、前後各3日間を合わせた合計7日間が「春のお彼岸」です。「彼岸」という言葉はもともと仏教用語で、深い意味が込められています。
- 此岸(しがん)
- 人間のさまざまな欲望や迷いがある現世のこと。煩悩に満ちた私たちが生きるこの世を指す
- 彼岸(ひがん)
- 悟りの境地のこと。煩悩を断ち切り、悟りを開いた先祖の霊が眠るとされる世界を指す
- 西方浄土(さいほうじょうど)
- 阿弥陀仏が住む極楽浄土のこと。西のかなたにあると考えられている
仏教では、煩悩や迷いに苦しむ現世を「此岸」と呼び、悟りを開いた清らかな世界を「彼岸」と呼びます。彼岸とは、悟りを開いた先祖の霊が安らかに眠る阿弥陀仏の極楽浄土そのものを指すのです。「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉のとおり、この時期を境に寒さが和らぎ、過ごしやすい陽気が訪れます。
パ
新米パパ / 2歳児のパパ
彼岸って「あの世」のことだと思っていたんですが、もっと深い意味があるんですね。
博
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
そうなんです。此岸は煩悩の世界、彼岸は悟りの世界という仏教の考え方が根底にあります。お彼岸の行事は、煩悩を離れて悟りの境地に近づこうとする修行の意味も持っていたのですよ。
なぜ春分の日にお墓参りをするのか
仏教には「西方浄土」という教えがあり、極楽浄土は西のかなたにあると考えられています。春分の日と秋分の日は、太陽が真東から昇って真西に沈む日です。つまり、太陽が沈む方角がまさに西方浄土の方角と一致するため、この日は西方浄土にいる阿弥陀仏を拝するのにふさわしい日とされてきました。
こうした仏教の教えと、日本古来の先祖崇拝が結びついて、春分の日と秋分の日にはお墓参りをして先祖の霊を供養する風習が定着しました。此岸と彼岸が最も近づく日であるからこそ、先祖への想いが届きやすいと信じられてきたのです。
NOTE / 太陽が真西に沈む意味
春分と秋分は太陽が真西に沈む唯一の日です。仏教では極楽浄土が西にあると説かれているため、真西に沈む夕日に向かって手を合わせることは、阿弥陀仏を拝むことにつながると考えられてきました。
CHAPTER 04お墓参りの手順と持ち物
彼岸の中日にあたる春分の日には、家族で墓参りをして先祖を供養する習慣があります。初めてのお墓参りでも迷わないよう、用意するものと手順を確認しておきましょう。
お墓参りに用意するもの
- 掃除道具(ほうき、ちりとり、布など)
- 生花
- 線香
- ロウソク
- 数珠
- 水桶とひしゃく
- マッチまたはライター
- お供物(ぼた餅、果物、故人の好物など)
お墓参りの手順
- 01お墓の掃除をする墓石は濡れた布で丁寧にふいてから乾いた布で仕上げます。墓地周辺の雑草も忘れずに取り除きましょう。
- 02生花やお供物を供える生花を花立てに挿し、ぼた餅や故人の好物などをお供えします。
- 03線香を供えるロウソクに火をつけ、線香に火を移します。線香の火は口で吹き消さず、手であおいで消すのが作法です。
- 04手を合わせて祈るしゃがんで墓石より低い姿勢で手を合わせ、先祖の冥福を祈ります。数珠があれば手にかけましょう。
CHAPTER 05仏壇の作法 ― 彼岸の7日間に行うこと
お彼岸はお墓参りだけでなく、自宅の仏壇でも先祖を供養する大切な期間です。彼岸の入り(初日)から明け(最終日)までの7日間にわたって、毎日仏壇に手を合わせるのがしきたりとされています。
- 01仏壇を丁寧に掃除する彼岸の入りには仏壇をきれいに掃除します。仏具を取り出して一つずつ拭き、ほこりを取り除きましょう。
- 02花や水をお供えする新しい花を飾り、水やお茶をお供えします。花は季節の花を選ぶとよいでしょう。
- 03ぼた餅や故人の好物をお供えする春のお彼岸にはぼた餅を供えるのが定番です。故人が好んでいた食べ物を添えるのもよい供養になります。
- 04線香をあげる線香に火をつけ、香炉に立てます。煙とともに祈りが届くと考えられています。
- 05手を合わせて静かに祈る数珠を手にかけ、姿勢を正して静かに祈ります。先祖への感謝と家族の健康を願いましょう。
TIP / 彼岸の7日間の過ごし方
彼岸の7日間は毎日、朝晩に仏壇にお参りするのが理想です。忙しい日常でも、朝に手を合わせる習慣をつけることで先祖への感謝を日々の暮らしに取り入れることができます。
CHAPTER 06ぼた餅とおはぎ ― 同じものなのに呼び名が違う理由
お彼岸のお供え物として欠かせないのが、小豆餡で餅を包んだ和菓子です。春のお彼岸では「ぼた餅」、秋のお彼岸では「おはぎ」と呼ばれますが、実はどちらも同じ食べ物です。季節によって呼び名が変わるのには、花にちなんだ風雅な理由があります。
| 項目 | ぼた餅(春) | おはぎ(秋) |
|---|---|---|
| 季節 | 春のお彼岸 | 秋のお彼岸 |
| 由来の花 | 牡丹(ぼたん) | 萩(はぎ) |
| 中身 | もち米を小豆餡で包んだもの | もち米を小豆餡で包んだもの |
| 特徴 | 牡丹の花のように丸く大きめに作る | 萩の花のように小ぶりで細長く作る |
春の彼岸には牡丹(ぼたん)の花が咲くことから「ぼた餅(牡丹餅)」、秋の彼岸には萩(はぎ)の花が咲くことから「おはぎ(お萩)」と呼ばれるようになりました。日本人の季節を愛でる感性が、同じ食べ物に二つの名前を与えたのです。小豆の赤い色には古くから邪気を払う力があると信じられており、お彼岸に小豆を使ったお供え物をする風習は、先祖供養と魔除けの意味を兼ねています。
古来、春分の日は「日願(ひがん)」とも解釈され、太陽を信仰する日本人の自然崇拝と仏教の彼岸思想が融合して独自の行事が形づくられてきました。春の彼岸は農耕とも密接に結びついており、この時期に種まきの準備や田畑の手入れを始めることから、「春彼岸には種を蒔け」という農事の言い伝えも各地に残っています。太陽が真東から昇り真西に沈むこの日を境に日照時間が長くなり、生命が躍動する季節へと大地が目覚めていく――春分は、自然のリズムと人々の暮らしが最も調和する節目だったのです。
ぼた餅を彼岸にお供えする風習の背景には、小豆(あずき)の赤色に魔除けの力があるという古代からの信仰があります。小豆はかつて高価な食材であり、先祖への最上のもてなしとして餅と合わせてお供えしたのが牡丹餅の始まりとされています。作り方にも地域差があり、こし餡を用いるところ、粒餡を用いるところ、さらにきな粉やごまをまぶすところなどさまざまです。家庭ごとに受け継がれた「我が家のぼた餅」は、それ自体が先祖とのつながりを感じさせる味であり、お彼岸という行事を通じて食の文化と家族の記憶が世代を超えて伝えられていく大切な存在といえるでしょう。
CHAPTER 07旬の食べ物と季節の味覚
春の訪れを告げる食材がこの時期に旬を迎えます。
- 菜の花 ― ほろ苦い風味が春を感じさせる。辛子和えやパスタに
- たけのこ ― 早掘りの筍が出回り始める。若竹煮や天ぷらが定番
- ふきのとう ― 春一番の山菜。天ぷらやふき味噌で楽しむ
- いちご ― ハウス栽培の最盛期。各地でいちご狩りが楽しめる
和菓子の世界では桜餅や草餅が店頭に並び、春の彩りが食卓を華やかに演出します。春分の日の前後は三寒四温の気候が続き、暖かい日と寒い日が交互にやってきます。旬の食材を使った温かい料理と冷たい料理を上手に組み合わせながら、変わりやすい気候に体を合わせていきましょう。
CHAPTER 08過ごし方とイベント
祝日のため家族で過ごす方が多く、お墓参りのほかにも季節を楽しむさまざまな過ごし方があります。各地の梅園や早咲きの桜が見頃を迎え、お花見の第一弾として賑わうスポットも少なくありません。
博物館や美術館では春の特別展が始まる時期でもあり、文化的な一日を過ごすのにも適しています。ガーデニング愛好家にとっては春の花の植え替えやハーブの種まきの適期にあたり、ホームセンターの園芸コーナーが活気づく季節です。
パ
新米パパ / 2歳児のパパ
春分の日にはお墓参り以外に何かする風習はありますか?
博
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
ぼた餅を作って食べる風習のほか、「自然をたたえ、生物をいつくしむ日」として春の花を愛でるのもおすすめです。この頃は桜の開花も近く、本格的な春の訪れを感じる日ですよ。
CHAPTER 09よくある質問
A.
2026年の春分の日は3月20日(金曜日)です。春分の日は天文計算により毎年決定され、3月20日か21日になります。
A.
基本的に同じもので、季節によって呼び名が変わります。春のお彼岸は牡丹の花にちなんで「ぼた餅(牡丹餅)」、秋のお彼岸は萩の花にちなんで「おはぎ(お萩)」と呼びます。
A.
いいえ。国立天文台が天文計算で算出し、前年の2月に官報で発表されます。3月20日か21日のどちらかになります。
A.
仏教では極楽浄土は西のかなたにあると考えられています。春分の日は太陽が真西に沈むため、西方浄土の阿弥陀仏を拝するのにふさわしい日とされ、先祖供養の風習が生まれました。
A.
春分の日を中日として前後各3日間、合計7日間が春のお彼岸です。最初の日を「彼岸の入り」、最後の日を「彼岸の明け」と呼びます。
CHAPTER 10まとめ
春分の日は昼と夜の長さがほぼ等しくなる春の節目であり、1948年に「自然をたたえ、生物をいつくしむ」日として国民の祝日に制定されました。お彼岸の中日として先祖供養を行う意味も持ち、太陽が真西に沈むこの日は西方浄土の阿弥陀仏を拝するのにふさわしいとされています。ぼた餅を供えてお墓参りや仏壇のお参りをし、菜の花やたけのこなど旬の食材で春の訪れを味わいましょう。「暑さ寒さも彼岸まで」の言葉どおり、本格的な春はもうすぐそこです。

