立夏(りっか)は、二十四節気(にじゅうしせっき)の第7番目にあたり、暦の上で夏が始まる日です。2026年は5月5日から5月20日頃までの期間を指します。春の穏やかな陽気から一転、日差しが力強さを増し、木々の緑がいっそう鮮やかになる季節の変わり目です。端午の節句と重なることも多く、鯉(こい)のぼりが泳ぐ青空はこの時期ならではの風景といえるでしょう。

CHAPTER 01二十四節気における位置づけ
二十四節気は太陽の黄経をもとに一年を24等分した暦で、中国の古代農業暦に由来します。立夏は黄経45度の地点にあたり、立春(りっしゅん)・立秋(りっしゅう)・立冬(りっとう)とともに四立(しりゅう)と呼ばれる季節の区切りの一つです。暦の上では春分(しゅんぶん)と夏至(げし)のちょうど中間に位置し、「夏の始まり」を意味します。ただし、立夏を迎えてもまだ春の延長のような陽気が続き、実際に暑さを感じることは少ない時期です。むしろ初夏の心地よい風と緑が美しい行楽日和が続く、一年の中でも特に過ごしやすい季節といえるでしょう。
この節気を迎えると、平均気温は20度前後まで上がり、半袖で過ごせる日も増えてきます。七十二候では「蛙始鳴(かわずはじめてなく)」「蚯蚓出(みみずいずる)」「竹笋生(たけのこしょうず)」の三候に分けられ、生き物や植物の活動が活発になる様子が暦に刻まれています。ちなみに、前の節気にあたる穀雨(こくう)が「春の恵みの雨」を象徴するのに対し、この節気は「夏の日差しの力強さ」を象徴しており、二つの節気の間に春から夏への切り替わりがはっきりと表れています。
立夏は二十四節気のなかで夏の入口にあたる節気であり、古くから衣替えや農作業の節目として重視されてきました。中国の古典『暦便覧』には「夏の立つがゆへなり」と記され、万物が成長して天地に満ち始める時期とされています。日本ではこの頃から田植えの準備が本格化し、水田に水が張られて蛙が鳴き始めます。七十二候の「蛙始鳴」「蚯蚓出(みみずいずる)」「竹笋生(たけのこしょうず)」はいずれも生命の躍動を描写しており、自然界が夏に向かって大きく動き出す様子を暦が教えてくれるのです。
5月5日頃
立夏の時期
二十四節気
暦の分類
夏の始まり
暦の上での意味
CHAPTER 02なぜ「夏」なのに暑くない?二十四節気と季節感のずれ
「立夏」と聞くと真夏のような暑さを想像するかもしれませんが、実際の5月上旬はまだ爽やかで過ごしやすい気候です。この季節感のずれには歴史的な理由があります。
二十四節気は古代中国で体系化された暦です。節気の名称は、当時の中国の政治・文化の中心地だった黄河流域の気候に合わせてつけられました。黄河流域は大陸性の寒冷な気候であり、5月上旬にはすでに気温が上がり始め、まさに「夏が立つ」季節だったのです。
この暦がそのまま日本に伝わったため、海洋性気候で比較的温暖な日本では、節気の名前と体感の季節にずれが生じるようになりました。立夏のほかにも、立秋(8月上旬)に「もう秋?」と感じるのは同じ理由です。二十四節気を楽しむときには、こうした文化の伝播を知っておくと、暦の見方がぐっと深まります。
パ
新米パパ / 2歳児のパパ
まだ全然暑くないのに「夏」って不思議だなと思っていました。中国の気候が基準だったんですね。
博
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
そうなんです。黄河流域は内陸の乾燥した気候なので、日本より季節の進みが早かったんですね。日本の二十四節気は「先取りの暦」と考えると、季節を待つ楽しみが増しますよ。
NOTE / 季節感のずれを知る
二十四節気の名称は古代中国の黄河流域の気候に基づいています。日本に伝わった際に気候差による季節感のずれが生じましたが、これは節気を「季節の先触れ」として捉える日本独自の感性を育むきっかけにもなりました。
CHAPTER 03旬の食べ物と食の楽しみ
この時期に旬を迎える食材は豊富です。代表格は新茶で、「夏も近づく八十八夜(はちじゅうはちや)」の唱歌にもあるように、八十八夜(5月1日頃)に摘まれた一番茶は香り高く栄養価も優れています。
TIP / 立夏に食べたい旬の食材
そら豆、新じゃが、アスパラガス、初鰹(はつがつお)などが旬を迎えます。「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」の句にもあるように、初夏の恵みを存分に味わいましょう。
- そら豆:塩茹でにするだけで初夏の味覚を堪能できる
- 新じゃがいも:皮が薄く、ほくほくとした食感が特徴
- アスパラガス:太陽の光をたっぷり浴びて甘みが増す時期
- 初鰹(はつがつお):「目に青葉 山ほととぎす 初鰹」と詠まれた江戸っ子の粋な味
端午の節句と重なるため、柏餅(かしわもち)やちまきも食卓に並びます。柏の葉は新芽が出るまで古い葉が落ちないことから、子孫繁栄の縁起物として大切にされてきました。ちまきは中国の故事に由来し、邪気を払う食べ物として端午の節句に欠かせない一品です。地域によって笹の葉や竹の皮で包む形が異なり、関東と関西で味付けや見た目に違いがあるのも興味深い点です。
CHAPTER 04季節の過ごし方と行事
ゴールデンウィークと重なるこの節気は、アウトドアを楽しむ絶好の時期です。山々は新緑に輝き、ハイキングや森林浴には最適な気候となります。各地の公園ではツツジや藤の花が見頃を迎え、花の名所は多くの人で賑わいます。
子どもの日(5月5日)には、鯉のぼりを揚げ、菖蒲湯に入る風習があります。菖蒲(しょうぶ)の葉には邪気を払う力があるとされ、束ねて湯に浮かべると爽やかな香りが浴室に広がります。家族で柏餅を頬張りながら、子どもの健やかな成長を願うひとときは、日本の初夏を象徴する光景です。
パ
新米パパ / 2歳児のパパ
立夏って、具体的に何をする日なんですか?
博
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
立夏は暦の上で夏が始まる日です。特別な行事というよりも、季節の変わり目を意識して過ごす日ですね。新緑を楽しむ散歩や、風通しのよい部屋づくりなど、夏を迎える準備を始めるのにぴったりの時期です。
CHAPTER 05皐月(さつき) ── 田の神の月
旧暦5月の和風月名は皐月(さつき)です。この「さ」という音には深い意味が込められています。古語で「さ」は田の神(稲作の神)を指す言葉であり、「さつき」とは「田の神の月」、すなわち田植えの月を意味します。立夏を迎える5月は、日本人にとって稲作の始まりを告げる大切な季節でもあったのです。
この「さ」という古語は、農耕にまつわるさまざまな言葉の中に今も息づいています。田植え用の若い稲を意味する早苗(さなえ)は「田の神の苗」、田植えをする女性を指す早乙女(さおとめ)は「田の神に仕える女性」という意味です。梅雨の雨を表す五月雨(さみだれ)も「田の神の月に降る雨」が語源とされています。何気なく使っている日本語の中に、稲作とともに歩んできた日本文化の記憶が刻まれているのです。
- 皐月(さつき)
- 田の神の月。旧暦5月の和風月名で、田植えが行われる時期を表す
- 早苗(さなえ)
- 田の神の苗。田植え用に育てた若い稲の苗のこと
- 早乙女(さおとめ)
- 田の神に仕える女性。田植えをする若い女性を指す古い呼び名
- 五月雨(さみだれ)
- 田の神の月に降る雨。旧暦5月に降り続く梅雨の長雨を意味する
パ
新米パパ / 2歳児のパパ
早苗も早乙女も五月雨も、全部「さ」が田の神という意味だったんですね。日本語って奥が深いなあ。
博
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
そうなんです。稲作は日本の暮らしの根幹でしたから、田の神への祈りが言葉のあちこちに残っているんですよ。皐月という月名一つとっても、先人たちの自然への敬意が伝わってきますね。
天道花 ── 田の神を迎える花
田植えの前には、田の神を天から迎えるための天道花(てんとうばな)という風習がありました。白い花 ── 特に卯の花(ウツギ)などを長い竿の先に挿し、天に向けて高く立てるのです。竿に飾られた花は、天道(太陽や天の神)に向けて掲げる花であり、田の神が降りてくるための依代(よりしろ)とされていました。室町時代から江戸時代にかけての文献にもその記録が見られ、天保9年(1838年)の『東都歳事記』にも描かれています。
天道花に使われた卯の花(ウツギ)は、立夏の頃に小さな白い花を咲かせる5月を代表する花木です。唱歌『夏は来ぬ』の冒頭「卯の花の匂う垣根に」で歌われるように、垣根いっぱいに咲く卯の花は初夏の訪れを知らせる風物詩でした。田の神を迎え、豊作を祈るこの素朴な花飾りは、自然とともに生きてきた日本の農村の信仰を今に伝えています。
虫送り ── 豊作を祈る夏の行事
田植えが終わると、次に農家が心を砕いたのが害虫の駆除です。虫送りは、松明(たいまつ)を手にあぜ道を練り歩き、太鼓や鉦(かね)を打ち鳴らしながら害虫を田んぼから追い払う農村の伝統行事でした。火と音の力で虫を追い立て、村の外へ送り出すことで稲を守ろうとしたのです。地域によっては「さねもり送り」とも呼ばれますが、これは源平合戦で知られる武将・斎藤実盛(さいとうさねもり)が稲の害虫に転生したという伝説に由来しています。幕末から各地でとりわけ盛んになり、集落ごとに松明の列が夜道を照らす光景は、日本の初夏を彩る風物詩の一つでした。
NOTE / 現代に残る虫送り行事
虫送りは農薬の普及とともに多くの地域で途絶えましたが、富山県南砺市や石川県白山市など一部の地域では今も伝統行事として受け継がれています。松明を掲げて田んぼのあぜ道を歩く幻想的な光景は、地域の文化遺産として見直されつつあります。
CHAPTER 06暮らしの衣替えと体調管理
企業や学校では衣替えの準備が始まり、クールビズへの移行もこの時期が目安となります。朝晩はまだ涼しい日もあるため、薄手の羽織物を一枚用意しておくと安心でしょう。また、湿度が低く爽やかな晴天が多いこの時期は、布団や衣類の虫干しにも最適です。梅雨入り前のこのタイミングを活かして冬物の収納を済ませておくとよいでしょう。
5月から始める紫外線対策
夏本番はまだ先ですが、紫外線量は5月から8月にかけてがピークです。気象庁のデータでも、5月の紫外線量は真夏の7〜8月とほぼ同水準に達します。真夏と違って気温がそれほど高くないため油断しがちですが、日焼け止めを塗らずに外出すると、気づかないうちに肌へのダメージが蓄積されてしまいます。
CAUTION / 5月の紫外線に注意
紫外線量は5月から急増し、真夏に匹敵するレベルに達します。「まだ夏じゃないから大丈夫」と油断せず、日焼け止め・帽子・サングラスなどの紫外線対策をこの時期から習慣にしましょう。特に子どもの肌は大人より紫外線の影響を受けやすいため、外遊びの際はこまめな塗り直しが大切です。
気温差が大きい季節の変わり目は体調を崩しやすい時期でもあります。旬の野菜や果物でビタミンを補い、適度な運動と十分な睡眠を心がけることが、夏本番に向けた体づくりのポイントです。
INFO / 立夏と端午の節句
立夏は5月5日頃で、端午の節句(こどもの日)と近い時期にあたります。鯉のぼりや柏餅、菖蒲湯などの端午の風習も、立夏の季節感と深くつながっています。
A.
二十四節気の一つで「夏が立つ(始まる)」という意味です。暦の上ではこの日から立秋の前日までが夏となります。実際の気候はまだ爽やかな初夏で、過ごしやすい時期です。
A.
2026年の立夏は5月5日です。二十四節気は年によって1〜2日前後することがあります。
A.
立夏の次は「小満(しょうまん)」で、5月21日頃です。万物が成長して天地に満ち始める時期を意味します。
A.
二十四節気は古代中国の黄河流域の気候をもとに名付けられました。黄河流域は大陸性の寒冷な気候で、5月には暑くなり始めていたため「夏の始まり」とされたのです。海洋性気候の日本に伝わった際に季節感のずれが生じました。
A.
皐月は旧暦5月の和風月名で、「さ」は田の神(稲作の神)を意味する古語です。つまり「さつき」は「田の神の月」すなわち田植えの月を表しています。早苗(さなえ)や早乙女(さおとめ)、五月雨(さみだれ)の「さ」も同じく田の神を指す言葉が語源とされています。
CHAPTER 07まとめ
立夏は暦の上で夏の始まりを告げる節気で、新緑と初夏の味覚を存分に楽しめる季節です。新茶や初鰹、そら豆など旬の食材が食卓を彩り、端午の節句とあわせて家族の絆を深める行事も重なります。紫外線対策や体調管理に気を配りながら、爽やかな風が吹く初夏のひとときを満喫しましょう。

