初午(はつうま)は、2月最初の「午(うま)の日」に行われる稲荷神社の祭日です。五穀豊穣や商売繁盛を願って全国の稲荷神社で祭礼が営まれ、いなり寿司や初午団子を食べる風習があります。この記事では、初午の由来や2026年の日取り、稲荷神社とキツネの関係、初午ならではの食べ物や参拝の作法までわかりやすく解説します。
CHAPTER 01初午とは?意味と由来

初午とは、2月に入って最初の午の日に行われる稲荷神社の祭日です。十二支(じゅうにし)は日にも割り当てられており、12日ごとに午の日がめぐってきます。2月最初の午の日を「初午」、2回目を「二の午」、3回目がある年は「三の午」と呼びます。
初午の起源は、和銅4年(711年)の2月初午の日に、稲荷大神が京都・稲荷山の三ケ峰に鎮座されたという伝承にさかのぼります。これが現在の伏見稲荷大社の始まりであり、以来1300年以上にわたって初午の日に稲荷大神を祀る祭礼が続けられてきました。「稲荷」という名前は、稲荷大神が稲を荷(にな)って山に登った姿に由来するとも、「稲が成る」が転じて「いなり」になったともいわれています。
2026年の初午は2月1日(日曜日)です。日曜日にあたるため、家族そろって稲荷神社へお参りしやすい年といえます。二の午は2月13日(金曜日)です。
2月1日(日)
2026年の初午
和銅4年(711年)
起源
約3万社
全国の稲荷神社
CHAPTER 02稲荷神社とキツネの関係
稲荷神社といえばキツネの像が思い浮かびますが、キツネそのものが神様というわけではありません。キツネは稲荷大神の神使(しんし)、つまり神様のお使いです。稲荷神社の入り口や拝殿の前に鎮座する一対のキツネの像は「狛狐(こまぎつね)」と呼ばれ、神社を守護する役割を担っています。
狛狐がくわえているものにも意味があります。稲穂は五穀豊穣、鍵は神様の倉の鍵で富の象徴、巻物は知恵を表し、玉(宝珠)は霊徳や願いが叶うことを象徴しています。参拝の際には狛狐がくわえているものにも注目してみると、稲荷信仰への理解がより深まるでしょう。
- 稲穂
- 五穀豊穣の象徴。稲荷大神が農業の神であることを示す
- 鍵
- 神様の倉を開く鍵で、富と繁栄の象徴
- 巻物
- 知恵や学問の象徴。稲荷信仰が商人や職人にも広まった背景を反映
- 玉(宝珠)
- 霊徳を表し、願いが叶うことの象徴。如意宝珠とも呼ばれる
キツネに油揚げを供える理由は、キツネの好物が油で揚げたネズミだったことに由来するとされています。やがて殺生を避ける仏教的な考えから、ネズミの代わりに油揚げが供えられるようになりました。この油揚げとキツネの結びつきが、後にいなり寿司という食文化を生み出すことになります。
稲荷大神はもともと農業の神様として信仰されてきました。京都の伏見稲荷大社に伝わる縁起によれば、キツネの姿に化けた神の使いが稲荷山に降り立ち、五穀の豊穣をもたらしたとされています。秋になると山から里へ降りてくるキツネの習性が、山の神が田の神として降臨する姿と重なり、キツネは稲荷大神の忠実な眷属(けんぞく)として深く敬われるようになりました。
INFO / 稲荷神社は日本で最も多い神社
稲荷神社は全国に約3万社あり、日本で最も数の多い神社です。総本社は京都市伏見区に鎮座する伏見稲荷大社で、千本鳥居で知られ、年間約270万人が初詣に訪れます。企業や商店街の一角に小さな稲荷社が祀られていることも多く、日本人の暮らしに最も身近な神社といえます。
CHAPTER 03初午の食べ物
初午の日には、稲荷神社への感謝と祈りを込めて特別な食べ物をいただく風習があります。地域によって多彩な食文化が残されています。
いなり寿司
初午の食べ物として最も代表的なのがいなり寿司です。稲荷大神の神使であるキツネの好物・油揚げに酢飯を詰めたもので、「お稲荷さん」とも呼ばれます。江戸時代後期に庶民の間に広まり、初午の日に食べると福を招くとされてきました。
いなり寿司には面白い地域差があります。東日本では俵型が主流で、米俵に見立てて五穀豊穣を願う形です。一方、西日本では三角形が一般的で、キツネの耳の形を模しているとされています。中に詰める具材も、東日本では白い酢飯のみのシンプルなものが多いのに対し、西日本ではゴマや刻んだ野菜などの五目酢飯を詰めることが多い傾向があります。
初午団子
初午団子は、蚕(かいこ)の繭(まゆ)の形を模した小さな団子です。養蚕が盛んだった地域、特に北関東(群馬県・栃木県など)で初午の日に作られてきました。繭がたくさん取れるようにという祈りが込められており、「まゆ玉」とも呼ばれます。白い団子を繭のように細長い楕円形に丸め、蒸してから食べるのが一般的です。地域によっては団子を木の枝に刺して飾る風習もあります。
しもつかれ
しもつかれは、栃木県を中心に群馬県や茨城県で初午の日に作られる北関東の郷土料理です。鮭の頭・節分の残りの大豆・大根おろし・にんじん・酒粕を大鍋で煮込んで作ります。大根おろしには「鬼おろし」と呼ばれる竹製の粗いおろし器を使うのが特徴で、ざくざくとした食感に仕上がります。
見た目は素朴ですが栄養豊富で、古くから「7軒の家のしもつかれを食べると病気にならない」という言い伝えがあります。各家庭で味付けや材料の配分が異なるため、ご近所同士で分け合うのが初午の風習でした。正月の残りの鮭の頭や節分の大豆を無駄なく使い切る、先人の知恵が詰まった料理です。
新米パパ / 2歳児のパパ
初午の日にいなり寿司を食べるのは知っていたけど、東と西で形が違うんですね。うちは関東なので俵型です。子どもと一緒に作れますか?
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
2歳のお子さんなら、酢飯を油揚げに詰める工程を一緒に楽しめますよ。手で酢飯を握って詰めるだけなので、小さな手でもお手伝いしやすい料理です。「キツネさんにあげようね」と声をかけながら作ると、食育にもなりますね。
新米パパ / 2歳児のパパ
稲荷神社のお参りも気になります。2歳の子を連れていっても大丈夫でしょうか?
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
もちろん大丈夫です。初午の日は多くの稲荷神社でお祭りが行われ、甘酒(あまざけ)の振る舞いがある神社もあります。小さなお子さんは狛狐に興味を持つことが多いので、「キツネさんが何をくわえているかな?」とクイズ形式で楽しむと、飽きずにお参りできますよ。
新米パパ / 2歳児のパパ
初午の日は稲荷神社がいつもと雰囲気が違ったりしますか?
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
初午の日は参道に赤い幟(のぼり)がずらりと立ち並び、普段とはまったく違う華やかな雰囲気になりますよ。奉納(ほうのう)された赤い鳥居が連なる稲荷神社ならではの風景は、お子さんの記憶にも残るはずです。
CHAPTER 04初午詣の作法と楽しみ方
初午の日に稲荷神社を参拝することを「初午詣(はつうまもうで)」といいます。江戸時代には「初午詣でせぬ者は夜が明けぬ」といわれるほど盛んな行事でした。現在も多くの稲荷神社で初午祭が行われ、参拝者でにぎわいます。
参拝の作法は一般的な神社と同じく「二礼二拍手一礼」です。まず鳥居の前で一礼し、参道の端を歩いて拝殿に向かいます。手水舎で手と口を清めたら、拝殿の前でお賽銭を入れ、二回深くお辞儀をし、二回手を打ち、最後に一回深くお辞儀をします。
初午詣では、商売繁盛・五穀豊穣・家内安全を祈願するのが伝統的です。もともと農耕の神様への感謝から始まった行事のため、仕事や暮らしの実りを願うのにふさわしい機会です。初午の日限定の御朱印(ごしゅいん)を授与する神社も増えており、御朱印集めを楽しむ方にも人気があります。また、絵馬にキツネが描かれた稲荷神社特有のデザインも見どころのひとつです。
お供え物としては、油揚げやいなり寿司のほか、お神酒(日本酒)、赤飯、ろうそくなどが一般的です。神社によって異なりますので、事前に確認しておくとよいでしょう。
TIP / 子連れで初午詣を楽しむコツ
小さなお子さん連れの場合は、混雑を避けて午前中の早い時間帯に参拝するのがおすすめです。初午祭では太鼓や笛の音が響く神社もあり、お子さんにとって貴重な体験になります。境内で転ばないよう歩きやすい靴を履かせ、寒さ対策も万全にしましょう。参拝後に家族でいなり寿司を食べれば、初午の思い出がより深まります。
CHAPTER 05全国の初午祭
初午の日には全国各地の稲荷神社で盛大な祭礼が行われます。なかでも特に有名な初午祭をご紹介します。
伏見稲荷大社(京都府)
全国約3万社の稲荷神社の総本社である伏見稲荷大社では、初午大祭が盛大に執り行われます。参拝者には「しるしの杉」と呼ばれる杉の枝が授与され、商売繁盛・家内安全の御守りとして持ち帰ります。千本鳥居が朱色に輝く境内は初午の日にひときわ活気づき、全国から多くの参拝者が訪れます。
笠間稲荷神社(茨城県)
日本三大稲荷のひとつに数えられる笠間稲荷神社でも、初午祭は重要な祭事です。五穀豊穣と商売繁盛を祈る神事が厳かに行われ、境内では甘酒の振る舞いや縁起物の授与があります。関東圏からのアクセスがよく、家族連れでの参拝にも人気があります。
祐徳稲荷神社(佐賀県)
九州を代表する稲荷神社である祐徳稲荷神社は、「日本三大稲荷」のひとつとされ、年間約300万人が参拝します。初午祭では豊作と商売繁盛を願う祭典が行われ、楼門から本殿へ続く石段に赤い幟が立ち並ぶ光景は壮観です。
NOTE / 初午の風物詩 ── 赤い幟と鳥居
初午の日には、稲荷神社の参道に赤い幟(のぼり)が何本も立ち並びます。「正一位稲荷大明神」と書かれた幟が風にはためく光景は、初午ならではの風物詩です。奉納された赤い鳥居が連なる参道を歩けば、日常とは異なる厳かで華やかな空気を感じることができるでしょう。
CHAPTER 06初午と春の訪れ ── 鶯の初音と梅の花
初午が行われる2月は、暦の上では立春を過ぎたばかりの時期にあたります。まだ寒さの残るこの頃、野山では鶯(うぐいす)がその年初めての美しい鳴き声を響かせ始めます。この最初の鳴き声を「鶯の初音(はつね)」と呼び、古来より春の到来を告げるめでたいしるしとされてきました。初午詣に向かう道すがら鶯の声を聞けば、稲荷大神の恵みとともに春の訪れを実感でき、二重の喜びとなったのです。
また、初午の頃は梅の花がほころび始める時期でもあります。稲荷神社の境内に植えられた梅の古木が白や紅の花を咲かせ、凛とした香りが参道を包みます。梅は「百花に先駆けて咲く」花として古くから珍重され、厳しい冬を耐えて花開くその姿に、人々は生命力と再生の象徴を見いだしてきました。初午の赤い幟と梅の花が織りなす情景は、まさに早春の日本の美を象徴する風景といえるでしょう。
江戸時代には、初午の日を「事始め」の吉日とする考え方が広く浸透していました。農家にとっては田畑の準備を始める節目であり、商家では新しい奉公人を迎え入れる日とされることもありました。子どもたちにとっても初午は特別な日で、寺子屋(てらこや)への入門は初午の日に行うのがよいとされ、「初午から手習い始め」という言い回しが残っています。学問の門出にふさわしい日として、稲荷大神の知恵の御利益にあやかろうとする庶民の願いがうかがえます。
CHAPTER 07よくある質問
A.
初午は2月最初の午の日、二の午は2回目の午の日です。初午が最も盛大に祝われますが、二の午にも祭礼を行う稲荷神社があります。2026年の初午は2月1日、二の午は2月13日です。年によっては三の午がある年もあります。
A.
キツネが稲荷大神の神使とされる由来には諸説あります。稲が実る秋に山から里へ降りてくるキツネの習性が、山の神が田の神として降りてくる姿と重なったという説や、キツネの尻尾が黄金色の稲穂に似ているからという説があります。いずれも稲作との深い結びつきが背景にあります。
A.
東日本の俵型は米俵に見立てて五穀豊穣を願ったもの、西日本の三角形はキツネの耳の形を模したものとされています。関ヶ原あたりを境に形が変わるといわれており、食文化の東西差を示す興味深い例のひとつです。
A.
十二支は日にも割り当てられており、12日周期で午の日がめぐってきます。2月に入って最初にめぐってくる午の日が初午です。そのため、初午の日付は年によって2月1日から2月12日の間で変動します。旧暦で数える地域もあり、その場合は3月にずれ込むこともあります。
A.
最も代表的なお供え物は油揚げやいなり寿司です。キツネの好物である油揚げを供える風習が広く知られています。そのほか、お神酒(日本酒)、赤飯、初午団子、ろうそくなどを供えることもあります。神社によって慣習が異なるため、参拝先に事前に問い合わせると安心です。
CHAPTER 08まとめ
初午は、2月最初の午の日に稲荷大神の恵みに感謝し、五穀豊穣や商売繁盛を祈る日本の伝統行事です。和銅4年(711年)の伏見稲荷大社の創建に始まるこの祭日は、1300年以上の歴史を持ちます。2026年の初午は2月1日(日曜日)で、家族そろってお参りしやすい日取りです。いなり寿司を手作りして稲荷神社へ初午詣に出かければ、日本の食文化と信仰の奥深さに触れるよい機会になるでしょう。東日本の俵型と西日本の三角形、お住まいの地域のいなり寿司はどちらの形でしょうか。ぜひ初午をきっかけに、身近な稲荷神社を訪ねてみてください。

