初釜(はつがま)は、新年に初めて釜に火を入れ、お茶を点てる茶会のことです。茶道の世界では一年の始まりを祝う最も大切な行事の一つであり、師匠と弟子が一堂に会して新春の喜びを分かち合います。多くは1月上旬から中旬、遅くとも1月中に催され、華やかな茶室のしつらえと特別な茶菓子が新年の祝賀にふさわしい格式を演出します。
丁寧に点てられたお茶
初釜 ─ 新年最初の茶会で一服のお茶を味わう

CHAPTER 01
由来と歴史

この茶会の歴史は、茶道が大成された室町時代末期から安土桃山時代にかけて遡ります。新年の茶会は古くから大切にされ、江戸時代に家元制度が整うと、各流派で新年最初の茶会を格式高い行事として催す伝統が定着しました。
「釜」は茶道で湯を沸かすための中心的な道具であり、その年初めて火を入れる行為が一年の茶道生活の幕開けを象徴しています。三千家(表千家・裏千家・武者小路千家)をはじめ各流派の家元でも、1月上旬から中旬にかけて招かれた客を迎え、数日にわたって初釜が催されます。地域の茶道教室でも初釜は一年で最も華やかな茶会として位置づけられ、普段は見られない特別な道具が披露される機会でもあります。
日本における茶の歴史は古く、奈良時代から平安時代初めにかけて、遣唐使や留学僧によって中国から伝えられたのが始まりとされています。鎌倉時代に栄西禅師が宋から茶の種を持ち帰り、『喫茶養生記』を著して茶の薬効を広めたことで、武家社会にも喫茶の習慣が浸透しました。室町時代には村田珠光が「わび茶」の精神を確立し、千利休がそれを大成させたことで、茶道は単なる飲茶の文化から精神修養の道へと昇華されました。初釜はこうした茶道の伝統の中で、新年の寿ぎと一年の精進を誓う格別な意味を持つ茶会として受け継がれています。
初釜で用いられる抹茶には、「口切りの茶」が使われることがあります。口切りとは、春に摘んだ新茶を葉茶のまま茶壺に詰めて封をし、夏の間熟成させたものを、11月ごろに封を切って臼でひいて使い始める行事で、茶の世界では「茶人の正月」とも呼ばれます。こうして大切に保管された上質な抹茶を初釜で点てることは、新年を迎える喜びと茶への敬意を表す所作なのです。
1月上旬
初釜の時期
千利休
茶道を大成した人物
新年の茶事
1年最初のお茶会

CHAPTER 02
時期と当日の流れ

日程は流派や教室によって異なり、松の内のうちに行うところもあれば、新年最初のお稽古日に合わせて1月中旬以降に行うところもあります。当日の基本的な流れは次のとおりです。
花びら餅とお茶
初釜は新年最初のお茶会
  • 寄付(よりつき):到着後、控えの間で身支度を整え、他の客と新年の挨拶を交わす
  • 席入り:茶室に入り、床の間の掛け軸や花を拝見する。新年にふさわしい「寿」「松竹梅」などの軸が多い
  • 懐石・点心:正式な茶事では懐石料理が供される。お稽古場の初釜では、点心(お弁当)などの軽い食事になることも多い
  • 濃茶(こいちゃ):練り上げた濃い抹茶を、一碗を数人で回していただく。新年の茶会の中心となる時間
  • 薄茶(うすちゃ):一人一碗ずつ点てられる。和やかな雰囲気の中で歓談を楽しむ。福引などのお楽しみがある教室も
茶席の時間は流派や規模によりますが、正式な茶事では約4時間におよぶこともあります。お稽古場の初釜は2〜3時間ほどのことが多いので、案内で時間を確かめておきましょう。

CHAPTER 03
服装・持ち物・マナー

この茶会では正装または準正装が基本です。女性は訪問着や色無地の着物が一般的で、教室によってはフォーマルな洋装も可能です。男性は紋付袴やダークスーツを着用します。
持ち物としては懐紙(かいし)・菓子切り・扇子・白靴下を揃えておきましょう。茶室に入る前に白靴下に履き替えるのがマナーです。師匠へのお年賀を持参するのが慣例で、金額や形式は流派・教室ごとに異なるため、先輩の門弟に事前に確認しておくと安心です。
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TIP / 子ども連れで参加するときは
お稽古場の初釜は大人の門弟向けのことが多いので、子どもを連れて行きたいときは事前に先生に相談しましょう。親子で参加できる体験茶会もあります。小さな子どもは長い正座が難しいため、出入りしやすい末席に座らせてもらう、途中で休憩できるよう付き添いを決めておくなどの準備をしておくと安心です。茶碗や道具は高価なものもあるので、触る前にひと声かけるよう教えておきましょう。

CHAPTER 04
茶菓子と道具のしつらえ

新年の茶会にふさわしい特別な菓子や道具が用いられるのも見どころの一つです。
新米パパ
新米パパ / 2歳児のパパ
初釜って初心者でも参加できるんですか?ちょっと敷居が高そうで…
カゾイロ博士
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
茶道教室に通っている方なら初心者でも参加できますよ。初めてでも先生やお仲間が教えてくれます。お菓子をいただきお茶を飲むだけでも十分楽しめます。最近はカジュアルな初釜イベントも増えています。
  • 花びら餅(はなびらもち):白い餅(求肥)で、紅色の菱餅と甘く煮たごぼう、白味噌餡を包んだ菓子。新年の茶席を代表する主菓子
  • 島台茶碗(しまだいぢゃわん):内側に金箔と銀箔を施した大小一組の重ね茶碗。おめでたい席で用いられる
  • 結び柳:床の間の花入に長い柳の枝を入れ、輪に結んだもの。一陽来復や再会への願いが込められているとされる
これらの道具や菓子には一つひとつ新年の祝意が込められており、見て・味わって・語り合うことで茶席の楽しみが何倍にも広がります。茶道初心者であっても、道具や菓子の意味を少し知っておくだけで、拝見や会話がぐっと楽しくなります。
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INFO / 初釜のお菓子「花びら餅」
花びら餅は、宮中の正月行事で用いられた「菱葩(ひしはなびら)」に由来する菓子です。明治時代に裏千家の家元が宮中から許しを得て初釜に用いるようになったのが始まりとされ、今では流派を問わず新年の茶席の定番になっています。和菓子店でも年末から1月ごろに並ぶので、家族で味わってみるのもおすすめです。
朱塗りの皿に盛られた花びら餅と抹茶
花びら餅 ─ 新春を祝う宮中由来の和菓子
新米パパ
新米パパ / 2歳児のパパ
初釜に招かれたら何を持って行けばいいですか?
カゾイロ博士
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
懐紙と菓子切り(楊枝)、扇子、白い靴下は自分で用意しておきましょう。先生へのお年賀は、お稽古場ごとに形や金額の慣例があるので、先輩に聞いておくと安心です。服装は着物が正式ですが、洋装でもかまわない教室が多いですよ。

CHAPTER 05
初釜に関するよくある質問

A.
多くは1月上旬から中旬、遅くとも1月中に行われます。流派や教室によって日程は異なり、新年最初のお稽古日に合わせて行うことも多いです。
A.
懐紙、菓子切り、扇子、白い靴下が基本の持ち物です。先生へのお年賀を持参することも多いので、形や金額は教室の先輩に確認しましょう。
A.
着物が正式ですが、洋装を認める教室も多くあります。その場合はスーツやワンピースなど控えめで改まった服装にし、正座しやすい丈のスカートかパンツを選びましょう。指輪や腕時計は道具を傷つけないよう外しておきます。
A.
お稽古場の初釜は大人の門弟向けのことが多いため、事前に先生に相談しましょう。子ども茶道教室や親子向けの体験茶会なら、お菓子とお茶を気軽に楽しめます。

CHAPTER 06
まとめ

初釜は、新年最初の茶会として茶道の一年を晴れやかに幕開けする格式高い行事です。花びら餅や島台茶碗など新春にふさわしいしつらえの中で、師匠や仲間とともに濃茶・薄茶を楽しむひとときは特別な体験です。服装や持ち物のマナーを押さえて、ぜひ一度この伝統的な茶会に足を運んでみてください。