放生会(ほうじょうえ)は、捕えた生き物を池や山林に放して殺生を戒め、命の大切さを感じる仏教由来の行事です。日本では古くから八幡宮の祭礼として行われ、なかでも福岡県の筥崎宮(はこざきぐう)の放生会は博多三大祭のひとつに数えられ、毎年9月に約100万人が訪れる九州最大級の秋祭りとして知られています。この記事では、放生会の歴史・全国の有名な放生会・見どころ・参拝の楽しみ方までわかりやすく解説します。

CHAPTER 01
放生会とは?基本の意味と読み方

放生会(ほうじょうえ)とは、生あるものの命を絶つことを戒める仏教の教えに基づき、捕えた魚や鳥などを自然に放つ儀式です。「ほうじょうえ」が正式な読みですが、博多では親しみを込めて「ほうじょうや」と呼ばれることもあります。もともとの祭日は旧暦8月15日(仲秋の名月の日)でしたが、明治の神仏分離(しんぶつぶんり)以降、放生会という名称が廃止された地域もあり、「仲秋祭」として神社の祭礼に引き継がれた例もあります。
放生会(ほうじょうえ)
捕えた生き物を放して殺生を戒める仏教行事。八幡宮の祭礼として全国に広まった
放生(ほうじょう)
捕えた魚や鳥を池や野に放つこと。仏教の不殺生戒(ふせっしょうかい)に基づく
放生会の読み方
正式には「ほうじょうえ」。博多では「ほうじょうや」とも呼ぶ
筥崎宮(はこざきぐう)の放生会
福岡市で9月12日〜18日に行われる博多三大祭のひとつ。約100万人が訪れる

CHAPTER 02
放生会の由来と歴史

中国における放生の起源

放生の起源は中国に遡(さかのぼ)ります。天台宗の実質的な開祖である智顗大師(ちぎだいし、538〜597年)が天台山の寺院の一角に池を設け、漁師が捕えた魚の一部を放たせたのが始まりとされています。智顗大師は仏教の経典『金光明経(こんこうみょうきょう)』にある「放生の功徳(くどく)」の教えを実践に移したのです。その後、唐の時代には皇帝の命により全国81か所に放生池(ほうじょうち)が設けられるほど広まりました。

日本への伝来と八幡信仰

日本には奈良時代に伝わり、天武天皇(てんむてんのう)5年(676年)に諸国に放生を命じた記録が『日本書紀(にほんしょき)』に残っています。これが日本における放生の最古の記録です。九州の宇佐八幡宮(うさはちまんぐう、大分県宇佐市)は大陸文化を早くから取り入れた先進地で、養老4年(720年)の隼人の乱(はやとのらん)で命を落とした人々の霊を慰めるため、放生会を八幡宮の祭礼として始めました。
宇佐八幡宮で始まった放生会はやがて全国の八幡宮に広がり、日本独自の放生会の伝統が形成されました。特に神仏習合(しんぶつしゅうごう)の時代には、八幡神は「八幡大菩薩(はちまんだいぼさつ)」として仏教の守護神ともされ、放生会は神と仏が融合した日本ならではの祭礼として発展しました。
放生会の根底にある「生き物の命を尊ぶ」精神は、お盆に見られる精霊馬(しょうりょううま)の風習とも深いつながりがあります。お盆にきゅうりやなすで作る精霊馬は、ご先祖の霊が乗る馬や牛を模したもので、あの世とこの世を行き来する命の循環を象徴しています。放生会が捕らえた魚や鳥を放つことで「すべての命は等しく尊い」と説くのに対し、精霊馬は「亡き者の命もなお生き続ける」ことを示しており、両者は仏教の輪廻転生(りんねてんしょう)と慈悲の思想を共有しているのです。
仏教行事としての放生は、『金光明最勝王経(こんこうみょうさいしょうおうきょう)』『梵網経(ぼんもうきょう)』を経典上の根拠としています。特に梵網経の「放生の功徳は甚大なり」という教えは、中国の天台大師・智顗が実践した放生池の設置に直接つながりました。日本では養老4年(720年)に隼人の反乱で多くの犠牲者が出たことへの慰霊として宇佐八幡宮で初めて放生会が営まれ、仏教の殺生戒と神道の穢れ(けがれ)を祓う思想が融合した独自の形式へと発展しました。このように放生会は、経典の教えが日本の歴史的事件と神仏習合の風土の中で独自に変容した、きわめて日本的な仏教行事といえます。
新米パパ
放生会は仏教の行事なのに、神社のお祭りとして行われているんですね。不思議です。
カゾイロ博士
明治以前の日本では神仏習合が当たり前でしたからね。八幡宮は特に仏教との結びつきが強く、放生会は神仏が融合した日本ならではの祭りといえます。明治の神仏分離で形は変わりましたが、命を慈しむ精神は今も受け継がれていますよ。

CHAPTER 03
筥崎宮の放生会:博多三大祭の見どころ

福岡市東区の筥崎宮(はこざきぐう)で行われる放生会は、毎年9月12日〜18日の7日間にわたる九州最大級の秋祭りです。春の博多どんたく・夏の博多祇園山笠(ぎおんやまかさ)と並ぶ博多三大祭のひとつに数えられ、「万物の生命をいつくしみ、殺生を戒め、秋の実りに感謝する」祭りとして1000年以上の歴史を持ちます。

放生の儀と流鏑馬(やぶさめ)神事

放生会の神事の中心は、境内の放生池に魚や鳥を放つ「放生の儀」です。神職が祝詞(のりと)を奏上し、籠(かご)に入った鳩や生きた魚を自然に返す厳かな儀式が行われます。また、約500メートルの馬場を疾走しながら的を射る流鏑馬(やぶさめ)神事も大きな見どころです。射手3名が次々と馬を駆り、弓馬の武芸を奉納(ほうのう)するさまは迫力満点で、毎年多くの見物客が集まります。

約500軒の露店と名物グルメ

筥崎宮の参道には約500軒もの露店がずらりと並び、約1キロにわたる露店通りは九州随一の規模を誇ります。定番の焼きそばやりんご飴はもちろん、筥崎宮ならではの名物として新生姜(しんしょうが)の販売が有名です。放生会の時期に旬を迎える新生姜は「はじかみ」とも呼ばれ、昔から縁起物として参拝客に親しまれてきました。

おはじき・ちゃんぽん(ビードロ)・お化け屋敷

筥崎宮の放生会といえば、毎年デザインが変わる「放生会おはじき」が人気の縁起物です。博多人形師が手作りする陶製のおはじきは発売と同時に売り切れることも多い人気ぶりです。また、ガラス製の玩具「ちゃんぽん」(ビードロ)の音色も放生会の風物詩(ふうぶつし)として知られています。参道沿いには昔ながらのお化け屋敷や射的(しゃてき)などの遊戯場も立ち並び、大人から子どもまで楽しめる祭りとなっています。
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INFO / 博多三大祭とは
博多三大祭は、春の博多どんたく(5月)・夏の博多祇園山笠(7月)・秋の筥崎宮放生会(9月)の総称です。いずれも数百年の歴史を持ち、福岡の街を代表する祭礼として全国から観光客が訪れます。

CHAPTER 04
全国の有名な放生会

宇佐神宮(大分県)の放生会

宇佐神宮(うさじんぐう)は全国約44,000社の八幡宮の総本宮であり、放生会発祥の地でもあります。養老4年(720年)に始まったとされる宇佐の放生会は、境内の和間(わま)の浜で魚を放つ「放生の儀」が古式ゆかしく行われます。隼人の乱で犠牲となった人々の鎮魂(ちんこん)が原点にあり、命を慈しむという放生会の精神がもっとも色濃く残る祭礼といえます。

石清水八幡宮(京都府)の放生会

京都府八幡市(やわたし)の石清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう)では、貞観5年(863年)に始まったとされる「石清水祭」のなかで放生の儀が行われます。放生川(ほうじょうがわ)に鳩を放つ儀式は平安時代から続く伝統で、天暦2年(948年)以降は朝廷の年中行事としても奉納されるようになりました。石清水祭は「勅祭(ちょくさい)」の格式を持ち、日本三大勅祭のひとつに数えられています。
全国の主な放生会
神社・寺院所在地時期特徴
筥崎宮(はこざきぐう)福岡市東区9月12日〜18日博多三大祭。流鏑馬・露店約500軒
宇佐神宮(うさじんぐう)大分県宇佐市10月(仲秋祭)放生会発祥の地。全八幡宮の総本宮
石清水八幡宮京都府八幡市9月15日(石清水祭)日本三大勅祭。放生川に鳩を放つ
鶴岡八幡宮(つるおかはちまんぐう)神奈川県鎌倉市8月15日鎌倉幕府以来の伝統。源頼朝ゆかりの社

CHAPTER 05
放生会の参拝・訪問ガイド

筥崎宮の放生会を訪れる際のポイントをまとめました。7日間の期間中は延べ約100万人が訪れるため、混雑対策が重要です。
  • アクセス:福岡市営地下鉄・箱崎宮前駅から徒歩3分。JR箱崎駅から徒歩8分
  • 混雑を避けるなら:平日の午前中がおすすめ。週末の夕方〜夜は特に混雑する
  • おすすめの回り方:まず参拝を済ませてから参道の露店を楽しむ。放生の儀や流鏑馬の日程は事前に公式サイトで確認を
  • 新生姜を買うなら:参道入口付近の露店で販売。束になった新鮮な生姜が並ぶのは放生会ならではの光景
  • 服装と持ち物:歩きやすい靴で。9月中旬の福岡はまだ蒸し暑いので、飲み物と扇子があると安心
TIP / 放生会おはじきの入手方法
筥崎宮の「放生会おはじき」は毎年数量限定で販売されます。初日の朝に長蛇の列ができるほどの人気ぶりなので、確実に手に入れたい場合は早朝から並ぶ必要があります。近年は事前抽選販売を行う年もあるため、公式サイトで最新情報を確認しましょう。
新米パパ
100万人も来るんですか! 子連れで行くなら平日がよさそうですね。新生姜も気になります。
カゾイロ博士
平日の午前なら比較的ゆったり回れるぞ。露店は昼頃から賑わい始めるから、まず神事を見て、それから食べ歩きを楽しむのがおすすめの回り方じゃ。

CHAPTER 06
よくある質問

A.
筥崎宮の放生会は毎年9月12日〜18日の7日間です。もともとの祭日は旧暦8月15日でしたが、現在は新暦9月に行われます。石清水八幡宮の石清水祭は9月15日、宇佐神宮の仲秋祭は10月に行われます。
A.
捕えた魚や鳥を放生池に放す「放生の儀」が中心的な神事です。筥崎宮では流鏑馬神事や約500軒の露店、放生会おはじきやちゃんぽん(ビードロ)の販売、お化け屋敷なども楽しめます。
A.
福岡の筥崎宮が最も有名ですが、大分の宇佐神宮(放生会発祥の地)、京都の石清水八幡宮、鎌倉の鶴岡八幡宮をはじめ、全国の八幡宮で放生に関する神事が行われています。
A.
仏教の不殺生戒(ふせっしょうかい)に基づき、捕えた生き物を自然に放つことです。命の大切さを再確認し、殺生の罪を償う仏教の実践行為です。『金光明経』に放生の功徳が説かれています。

CHAPTER 07
まとめ

放生会は、命あるものを慈しみ殺生を戒める仏教の教えに基づいた、日本独自の伝統行事です。中国から伝わった放生の精神が八幡信仰と結びつき、宇佐神宮から全国の八幡宮へと広まりました。筥崎宮の放生会をはじめ、秋の実りに感謝しながら命の大切さを見つめ直す機会として、今も多くの人々に親しまれています。秋の行事については秋の行事ガイド重陽の節句おくんちとは?もあわせてご覧ください。