酉の市(とりのいち)は、毎年11月の酉の日に行われる、商売繁盛を願う日本の伝統行事です。縁起物の「熊手」を買い求める人々で賑わう、晩秋の風物詩として知られています。この記事では、その由来や2026年の日程、熊手の買い方、有名な酉の市について解説します。

CHAPTER 01
酉の市とは?由来と歴史

酉の市は、鷲(おおとり)神社や大鳥神社を中心に、11月の酉の日に開催される祭礼です。起源は、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の帰途に鷲宮神社で戦勝を感謝したという伝説にさかのぼるとされています。
江戸時代には農民が収穫を感謝して鶏を奉納(ほうのう)する祭りとして定着し、やがて商人たちが商売繁盛を願う行事へと発展しました。もとは武蔵国南足立村(現・足立区花畑)の農民が秋の収穫を祝い、鷲を奉納したのが始まりともいわれ、江戸中期になると浅草へと移行していきました。「おとりさま」の愛称で親しまれ、江戸の年末の風物詩として浮世絵にも描かれています。
江戸時代には遊女屋・料理屋・船宿・芝居などが天井に熊手を飾り付ける風習が広まりました。華やかな飾り熊手が商家の繁盛を象徴するようになり、これが現在の商売繁盛の縁起物としての熊手の起源とされています。
酉の市の発祥は現在の東京都足立区花畑にあった鷲大明神の祭りとされています。もともと酉の市は酉の「まち」と呼ばれ、祭りの前夜に神社に籠もって参拝する風習でした。花畑の酉の市は賭博が名物として賑わいましたが、やがて賭博が禁じられると、地の利のよい浅草の鷲神社に人が流れ、現在の浅草が酉の市の中心地となりました。浅草鷲神社は「酉の寺」とも呼ばれる長國寺と隣接しており、もとの別名は正覚院(世俗大把握寺)でした。なお、鷲(おおとり)神社の総本社は大阪府堺市の大鳥大社で、勝負運の守護神として関東各地に勧請されています。
酉の日は12日周期で巡るため、11月に酉の日が2回ある年は「二の酉」、3回ある年は「三の酉」と呼ばれます。「三の酉がある年は火事が多い」という言い伝えがあり、防火のお守りとして「熊手守り」を買う風習もあります。
三の酉まである年は火事が多い」という言い伝えは、酉の市の歴史とともに語り継がれてきました。十二支を日ごとに当てはめると酉の日は12日おきに巡るため、11月の暦の並びによっては酉の日が2回(二の酉まで)の年と3回(三の酉まで)の年があります。三の酉がある年は11月下旬まで夜通し酉の市が催されることになり、多くの人が夜遅くまで出歩くことで火の不始末が増えると懸念されたのが、この言い伝えの起源とされています。また、吉原遊廓が酉の市に合わせて「お酉さまの大門(おおもん)開放」を行い、普段は入れない客までが押し寄せたことから、遊廓の火災防止を目的にこの戒めが広まったという説もあります。科学的な根拠はありませんが、空気が乾燥する晩秋にあらためて火の用心を意識するきっかけとして、現代でもこの言い伝えは大切にされています。
11月の酉の日
開催日
江戸時代
始まった時代
商売繁盛
熊手に込められた願い
酉の市の熊手の屋台
酉の市では縁起物の熊手を求める人で賑わう

CHAPTER 02
2026年の日程

2026年の酉の日と日程は以下の通りです。
  • 一の酉:11月4日(水)
  • 二の酉:11月16日(月)
  • 三の酉:11月28日(土)
開催は前日の深夜0時から翌日の深夜0時までの24時間が基本ですが、神社によって異なります。最も混雑するのは夕方から夜にかけてで、活気ある雰囲気を味わいたい方にはこの時間帯がおすすめです。

CHAPTER 03
熊手の買い方

この行事の主役は、商売繁盛や開運招福を願う縁起物「熊手」です。熊手は「福をかき込む」という意味が込められた縁起物で、毎年少しずつ大きいサイズを購入するのが慣わしです。熊手には「おかめ」「大入」「大判小判」「七福神」などの飾りがつけられており、華やかなものほど御利益があるとされています。

熊手の飾り物

熊手にはさまざまな縁起物が飾りつけられています。代表的なものとして、おたふく大入り袋米俵鯛(たい)編笠千両箱大判小判宝船稲穂松竹梅当たり矢巻物扇片などがあります。
このほか、起き上がり小法師なども飾られ、それぞれに商売繁盛・開運招福の願いが込められています。熊手が大きくなるほど飾り物の種類も増え、豪華になっていくのが特徴です。
熊手が商売繁盛の縁起物として定着した背景には、その形状に込められた意味があります。熊手の扇状に広がる形は「末広がり」を象徴し、福や運を「かき込む」道具として縁起がよいとされました。もともとは農具であった熊手が、落ち葉をかき集めるように「福をかき集める」道具へと転じたのです。飾りつけられるおかめ(お多福)は「笑う門には福来る」の象徴であり、大判小判は金運、鯛や亀は長寿と繁栄、松竹梅は不老長寿を表しています。酉の市では毎年一回り大きな熊手を購入する「年々繁盛」の慣習があり、初めての方は小さな熊手から始めて翌年に少し大きなものへと買い替えていくのがよいとされています。商売繁盛だけでなく、家内安全や開運招福など幅広い願いが熊手一つに凝縮されているのです。
TIP / 熊手の買い方のコツ
初めての方は小さめの熊手(1,000〜3,000円)から始めましょう。毎年少しずつ大きくしていくのが縁起がよいとされています。購入時の値切り交渉も酉の市の楽しみの一つですが、最終的にはご祝儀(しゅうぎ)として端数を上乗せして支払うのが粋です。

買い方のポイント

  • 初めての方:まずは小さいサイズ(1,000〜3,000円)から始める
  • 値切り交渉:熊手は値切るのが粋とされる。値切った分はご祝儀として渡すのが伝統的な作法
  • 手締め:購入後は売り手と一緒に三本締めで祝い、縁起を担ぐ
  • 飾り方:自宅や店舗の入口に向けて、目線より高い位置に飾る
NOTE / 値切りとご祝儀の粋な作法
酉の市では熊手を値切ること自体が縁起のよいやりとりとされています。値切った分をそのままご祝儀として熊手屋さんに渡すのが粋な買い方の文化です。たとえば5,000円の熊手を4,000円に値切ったら、差額の1,000円をご祝儀として戻します。売り手も買い手も気持ちよくなる、酉の市ならではの風習です。
古い熊手は翌年に持参して「熊手納め所」に返納し、新しいものに買い替えるのがマナーです。返納せずに処分する場合は、お清めの塩をかけてから廃棄するのが望ましいとされています。

CHAPTER 04
屋台と楽しみ方

熊手の購入だけでなく、境内には多数の屋台が並び、縁日の雰囲気も楽しめます。お好み焼き、焼きそば、あんず飴、切山椒などの露店が立ち並び、年末の訪れを感じさせる賑やかな空間が広がります。
熊手と並ぶ酉の市の縁起物が八つ頭(やつがしら)です。里芋の一種で、「人の頭(かしら)に立つ」という験担ぎから、出世を願って購入されてきました。かつては栗餅や竹箒なども酉の市の定番の品でしたが、現在では熊手と八つ頭が酉の市土産の代表格となっています。
切山椒(きりざんしょう)は、この行事ならではの名物です。山椒の風味がきいた餅菓子で、紅白の色合いが縁起物として好まれています。浅草の鷲神社周辺では、この時期だけの限定品として和菓子店で販売されます。
初めて訪れる方は、まず小さめの熊手を一つ購入し、境内の屋台を散策しながら年末の雰囲気を楽しむのがおすすめです。毎年通ううちに、お気に入りの熊手屋さんが見つかるでしょう。常連になると顔を覚えてもらえ、おまけをつけてくれることもあります。
新米パパ / 2歳児のパパ
酉の市って子連れでも楽しめますか?
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
屋台が並んで縁日のような雰囲気ですから、子どもも楽しめますよ。ただし夜は大変混雑するので、お子さん連れなら昼間の早い時間がおすすめです。小さな熊手を一緒に選ぶのも良い思い出になります。

CHAPTER 05
有名な開催地

  • 鷲神社(東京・浅草):江戸時代から続く最大規模の開催地。70万人以上が訪れる
  • 花園神社(東京・新宿):新宿の繁華街に位置し、アクセスの良さで人気
  • 大國魂神社(東京・府中):関東三大酉の市の一つに数えられる
  • 大鳥神社(大阪・堺):関西を代表する開催地で、西日本最大規模の熊手市が開かれる
  • 八王子・大宮など:関東各地でも酉の市が開催され、地域ごとの特色ある熊手市が楽しめる
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INFO / 三の酉がある年は火事が多い?
「三の酉がある年は火事が多い」という言い伝えがありますが、科学的な根拠はありません。三の酉まであると酉の市の回数が増え、夜遅くまで出歩く人が多くなるため、火の用心を促す意味で広まったとされています。
新米パパ / 2歳児のパパ
酉の市は毎年何回あるのですか?
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
11月の酉の日に開催されるため、年によって2回(二の酉まで)か3回(三の酉まで)になります。「三の酉がある年は火事が多い」という俗信もあり、三の酉のある年は特に火の用心を心がけるとされています。
A.
玄関や神棚の近くなど、目線より高い位置に飾るのが一般的です。商売をされている方はレジの近くやお店の入り口に飾ることが多いです。
A.
翌年の酉の市に持参して、神社の「古熊手納め所」に返納するのが一般的です。近くの神社でお焚き上げしてもらうこともできます。
A.
2026年の酉の日は、一の酉が11月4日、二の酉が11月16日、三の酉が11月28日です。各神社の開催日を事前に確認しましょう。

CHAPTER 06
火焚き神事(お火焚き)

酉の市と同じ11月に各地の神社で行われるのが「火焚き神事(お火焚き)」です。京都の伏見稲荷大社をはじめとする各地の神社で行われる秋の収穫感謝と厄除けの神事で、護摩木や火焚串を焚き上げて五穀豊穣や無病息災を祈ります。
火焚き神事では、お火焚き饅頭・おこし・みかんを供える風習があります。特に京都では、11月に入ると和菓子店にお火焚き饅頭が並び、みかんとともに神社に奉納したり、家庭で食べたりする習慣が残っています。酉の市が関東を中心とした商売繁盛の行事であるのに対し、火焚き神事は京都を中心とした秋の感謝の行事であり、ともに11月を代表する神事として日本の晩秋の風景を彩っています。
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CHAPTER 07
まとめ

11月の酉の日に行われる商売繁盛を願う日本の伝統行事です。縁起物の熊手を買い求め、威勢の良い手締めで新年の商売繁盛を祈願します。2026年は三の酉まであるため、3回の機会を活かして晩秋の風物詩を楽しんでみてはいかがでしょうか。