針供養(はりくよう)は、折れたり曲がったりした針を豆腐やこんにゃくに刺して供養する日本の伝統行事です。主に2月8日または12月8日に行われ、一年間使った針への感謝と、裁縫の上達を祈る意味が込められています。和歌山の淡嶋神社をはじめ、東京・浅草寺の淡島堂など各地の寺社で供養祭が催されます。次の針供養の日は2026年12月8日(火)と2027年2月8日(月)です。この記事では、針供養の意味と由来、2月8日と12月8日の違い、やり方と有名な寺社、子どもと一緒に参加するときのポイントまで解説します。
2月8日 / 12月8日
針供養の日(地域で異なる)
豆腐・こんにゃく
針を刺して供養する
淡島神社(和歌山)
針供養の総本社

CHAPTER 01
針供養の意味と由来

針供養とは、折れた針や曲がった針、錆びて使えなくなった針を柔らかい豆腐やこんにゃくに刺して供養する行事です。硬い布地を縫い続けてきた針に対し、最後は柔らかいものに刺して安らかに休んでもらうという思いやりの心が込められています。同時に、一年間の針仕事への感謝と、今後の裁縫の上達を祈願する意味もあります。
境内の針塚
神社やお寺の境内には、供養した針を納める針塚がある
かつて和裁は女性にとって最も重要な仕事の一つでした。家族の着物を仕立て、繕い、季節に合わせて洗い張りをする日々の中で、針は文字通り生活を支える道具でした。その針が折れたり曲がったりしたとき、ただ捨てるのではなく、感謝の気持ちを込めて供養するという発想は、道具を単なる消耗品としてではなく、仕事を共にしてくれた存在として敬う日本人の精神をよく表しています。
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TIP / なぜ豆腐やこんにゃくに刺すのか
硬いものばかり縫わせてきた針を、最後は柔らかいものに刺して休ませてあげるという意味があります。「硬い布ばかり縫わせてごめんなさい」という労いの気持ちが込められた、日本らしい優しい風習です。

針供養の歴史と淡嶋神社

針供養の起源には諸説ありますが、広く行われるようになったのは江戸時代ごろとされています。和裁が女性の大切な技芸とされた時代、針は毎日使う大切な道具で、折れたり曲がったりした針を丁寧に供養する習わしが各地に広まりました。
浅草寺
和歌山市加太の淡嶋神社(あわしまじんじゃ)は、針供養で知られる神社です。御祭神の少彦名命(すくなひこなのみこと)は医薬の神として、また女性の守り神として信仰され、全国から折れた針が奉納されてきました。各地にある淡島堂や淡島社は、この淡島信仰と結びついたものです。東京・浅草寺の淡島堂もその一つで、毎年2月8日に行われる針供養会には多くの参拝者が訪れます。
江戸時代には、針供養の日に針仕事を一切休むという決まりがありました。裁縫を生業とする仕立屋はもちろん、家庭の女性たちも針箱を片付けて一日を過ごしました。これは単に休息を取るという意味だけでなく、針という道具を敬い、自分の技術を振り返る大切な節目でもあったのです。

CHAPTER 02
針供養はいつ?2月8日と12月8日

針供養は、現在は2月8日に行う寺社が全国的に多く、京都・嵐山の法輪寺のように12月8日に行うところもあります。一般に「関東は2月8日、関西は12月8日」といわれることもありますが、和歌山の淡嶋神社や大阪の太平寺など、関西でも2月8日に行う寺社は少なくありません。出かける前に、各寺社の日程を確認しておきましょう。

「こと八日」と事始め・事納め

針供養が行われる2月8日と12月8日は、「こと八日(ことようか)」と呼ばれる特別な日です。ここでいう「こと」とは「事」、すなわち神事や祭り、あるいは農作業などの仕事全般を意味します。この二つの日は一年のサイクルの節目として、古くから「事始め(ことはじめ)」と「事納め(ことおさめ)」の日と位置づけられてきました。
事始め(ことはじめ)
一年の仕事や神事を始める日。新たな気持ちで作業に取り掛かる節目の日
事納め(ことおさめ)
一年の仕事を納める日。道具を片付け、労をねぎらい、感謝を捧げる日
こと八日(ことようか)
2月8日と12月8日のこと。事始め・事納めにあたる日で、針仕事を休んで物忌みをする日でもあった
どちらの日を「事始め」とし、どちらを「事納め」とするかは、地域によって解釈が分かれます。農作業を中心に考えて2月8日を事始め・12月8日を事納めとする見方と、正月行事を中心に考えて12月8日を事始め・2月8日を事納めとする見方があり、針供養の日が2つあるのもこうした考え方の違いと関係しているといわれます。
事八日は本来、季節の境目にあたる「物忌み(ものいみ)」の日であり、普段の仕事を休んで身を慎む日とされていました。この日に針仕事を休むのは単なる慣習ではなく、人と道具の両方を休ませて穢(けが)れを祓うという古い信仰に根ざしています。各地には事八日の夜に一つ目小僧や箕借り婆(みかりばば)といった妖怪が現れるという伝承があり、魔除けとして目籠(めかご)を軒先に掲げる風習が残っています。こうした物忌みの日に針を供養する行為は、道具への感謝にとどまらず、一年の区切りに心身を整え、次の季節へ向かう準備としての意味を持っていたのです。
「事始め」「事納め」の二つの見方
農作業を中心とする見方正月行事を中心とする見方
事始め2月8日(農作業の開始)12月8日(正月準備の開始)
事納め12月8日(農作業の終了)2月8日(正月行事の終了)
新米パパ
新米パパ / 2歳児のパパ
関東と関西で事始めと事納めが逆になるんですか?ちょっとややこしいですね。
カゾイロ博士
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
年神様を迎える正月行事を中心に考えるか、農作業を中心に考えるかの違いですね。どちらも「一年の大切な仕事」の始まりと終わりを区切るという点は共通しています。針供養の日も、この考え方の違いや地域の習わしによって2月8日と12月8日に分かれているんですよ。

こと八日の妖怪伝承

代表的な妖怪が「一つ目小僧」です。一つ目小僧は、こと八日の夜に家々を訪れ、人々の行いを見張ると信じられていました。また、地域によっては「ミカリ婆さん(箕借り婆)」という妖怪が来るとも言われています。ミカリ婆さんは箕(み:穀物をあおって選別する農具)を借りに来る老婆の姿をした妖怪で、遭遇すると災いが降りかかるとされました。
こうした妖怪を防ぐために、人々はユニークな風習を行いました。竹の先にザルやカゴを付けて軒先に掲げるのです。ザルやカゴには竹を編んだ無数の網目があり、これが「目」に見立てられました。目が一つしかない一つ目小僧は、自分よりもはるかに多くの目を持つ道具を見て怖気づき、退散するというわけです。この風習は関東地方を中心に各地に残っており、民俗学の研究対象としても重要視されています。
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INFO / 目籠の魔除け
目の多い道具(ザルやカゴ)を軒先に掲げて妖怪を防ぐ風習は、日本各地に見られます。「目」には邪気を見抜く力があるとされ、一つ目小僧はたくさんの目に圧倒されて逃げると信じられていました。この風習は、節分の柊鰯(ひいらぎいわし)で邪気を払う発想とも通じるものがあります。
新米パパ
新米パパ / 2歳児のパパ
針供養の日に妖怪が来るという話もあるんですね。子どもに話したら喜びそうです。
カゾイロ博士
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
こと八日は季節の変わり目にあたるため、「邪気が入り込みやすい日」と考えられていました。妖怪の伝説には「この日は外出せず静かに過ごしなさい」という先人の教えが込められているのです。ザルを掲げて一つ目小僧を追い払うというのも、子どもに語り継ぎたい面白い風習ですね。

CHAPTER 03
針供養のやり方と有名な寺社

針供養のやり方はシンプルですが、心を込めて行うことが大切です。寺社で行われる供養祭に参加する方法と、自宅で簡単に行う方法の二通りがあります。いずれの場合も、折れた針や曲がった針を柔らかいものに刺して感謝を捧げるという基本は同じです。
  1. 01
    使えなくなった針を集める
    折れた針、曲がった針、錆びた針など、使えなくなった縫い針を集めます。まち針やミシン針でも構いません。日頃からピンクッションや小さな容器にまとめておくと、供養の日にすぐ準備できます。
  2. 02
    豆腐またはこんにゃくを用意する
    供養に使う豆腐は絹ごし豆腐が一般的です。こんにゃくを使う地域もあります。いずれも「柔らかいものに刺して安らかに休んでもらう」という思いやりの心が表れた選択です。
  3. 03
    針を豆腐やこんにゃくに刺す
    「今までありがとう」「お疲れさまでした」と心の中で感謝の言葉を唱えながら、一本ずつ丁寧に針を刺していきます。硬い布ばかり縫わせた針を、最後は柔らかいものに刺して休ませてあげましょう。
  4. 04
    寺社に奉納する、または自宅で処分する
    針供養を行っている寺社に持参して奉納し、祈祷してもらうのが正式な方法です。自宅で行った場合は、針を紙に包んで不燃ゴミとして処分します。裁縫の上達も併せて祈願しましょう。
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CAUTION / 針の取り扱いに注意
折れた針は先端が鋭く、怪我の原因になります。集めるときはピンセットを使い、持ち運ぶ際は小さな容器やピンクッションに入れましょう。小さなお子さんがいるご家庭では、手の届かない場所に保管してください。

針供養で有名な寺社

全国各地で針供養の行事が行われていますが、特に有名な寺社をご紹介します。いずれも毎年多くの参拝者が訪れ、服飾関係者やハンドメイド愛好家はもちろん、一般の方も参加できます。
針供養で有名な寺社一覧
寺社名所在地実施日特徴
淡嶋神社和歌山県和歌山市2月8日針供養の総本社。全国から折れた針が奉納される。少彦名命を御祭神とし、裁縫の神として厚い信仰を集める
浅草寺 淡島堂東京都台東区2月8日東京を代表する針供養の名所。大きな豆腐に参拝者が次々と針を刺す光景が風物詩となっている
法輪寺京都府京都市12月8日など嵐山の虚空蔵菩薩の寺。12月8日に針供養を行い、芸事の上達祈願でも知られる
太平寺大阪府大阪市2月8日大阪市天王寺区夕陽丘の寺院。境内の針塚で針供養が行われる
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寺社での針供養祭では、大きな豆腐やこんにゃくが用意され、参拝者が持参した折れ針を一本ずつ刺していきます。僧侶や神職による読経(どきょう)・祝詞(のりと)の奏上が行われ、厳かな雰囲気の中で針への感謝が捧げられます。浅草寺の淡島堂では、巨大な絹ごし豆腐に何千本もの針が刺された姿が印象的で、ニュースや新聞でも取り上げられる冬の風物詩です。
針供養で折れた針を豆腐やこんにゃくといった柔らかいものに刺す作法には、日本人特有の「もの」への心遣いが表れています。硬い生地を縫い続けた針に、最後は柔らかいものを刺させて「ゆっくり休んでください」と労う発想は、道具にも魂が宿るという付喪神(つくもがみ)の信仰につながるものです。また、和歌山の淡島神社を総本社とする淡島信仰では、御祭神の少彦名命(すくなひこなのみこと)が医薬と裁縫の神として祀られており、針供養は病気平癒や技芸上達の祈願とも結びついてきました。現代でもプロの和裁士や服飾デザイナーが参拝に訪れるのは、こうした信仰の流れを受け継いでいるからにほかなりません。

CHAPTER 04
暮らしの中の針と手仕事

かつて和裁が女性の必須技芸だった時代と比べ、現代では既製品の衣料が主流となり、日常的に針を手にする機会は大きく減りました。しかし、針供養の文化は現在も脈々と受け継がれています。その担い手となっているのが、服飾系の専門学校や大学、和裁教室、そしてファッション業界の企業です。
服飾系の専門学校や大学、和裁教室などでは、針供養の日に学生や生徒がそろって寺社を参拝することがあります。一年間の授業で使い古した針を持参して豆腐に刺し、ものづくりに携わる者として道具への敬意を学ぶ機会にもなっています。
また、アパレル企業やテキスタイルメーカーの中にも、社内行事として針供養を行うところがあります。工場やアトリエで一年間使われた針をまとめて供養し、従業員の技術向上と安全を祈願するのです。こうした取り組みは、ファッション業界が伝統文化と結びついている証ともいえるでしょう。
新米パパ
新米パパ / 2歳児のパパ
針供養って、今でも学校や企業で行われているんですか?
カゾイロ博士
カゾイロ博士 / 行事・風習の専門家
はい。服飾系の専門学校では毎年恒例の行事になっていますし、和裁教室やアパレル企業でも続けられています。最近はハンドメイドブームもあり、刺繍や編み物を楽しむ一般の方が参加するケースも増えていますよ。
既製品が主流の現代でも、ボタン付けや裾上げ、子どもの入園・入学グッズ作りなど、針仕事が必要になる場面は意外と多いものです。最近はハンドメイドブームの広がりにより、刺繍やパッチワーク、刺し子などの手仕事を趣味として楽しむ方が増えています。SNSで作品を発表したり、ハンドメイドマーケットに出品したりと、針仕事が新しい形で生活に根付いてきています。
着物姿の女性
針供養の日をきっかけに、裁縫箱の中身を整理してみるのもおすすめです。錆びた針や曲がった針を感謝とともに供養し、新しい針に取り替えることで、手仕事への気持ちも新たになるでしょう。針供養は道具を単なる消耗品としてではなく、仕事を支えてくれた大切な存在として敬う日本人の精神を映し出しています。使い捨てが当たり前の現代社会において、この風習が伝えるメッセージは今なお輝きを失っていません。
お子さんと一緒に針供養に参加するのも良い体験です。「ものを大切にする心」や「道具への感謝」を自然に伝えることができ、日本の伝統文化に触れる貴重な機会になります。ワークショップや体験教室を併設する寺社もあるので、手仕事の楽しさを親子で発見してみてはいかがでしょうか。
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NOTE / 道具を大切にする日本の供養文化
針供養のように道具に感謝する文化は日本独特のものです。筆供養、包丁供養、人形供養、眼鏡供養など、使い終わった道具に「お疲れさまでした」と感謝を捧げる行事が各地にあります。道具に魂が宿るという「付喪神(つくもがみ)」の信仰とも関連しており、日本人のものへの向き合い方をよく表しています。

CHAPTER 05
針供養に関するよくある質問

A.
主に2月8日または12月8日に行われます。現在は2月8日に行う寺社が全国的に多く、京都の法輪寺のように12月8日に行うところもあります。次の針供養は2026年12月8日(火)と2027年2月8日(月)です。どちらも「事八日(ことようか)」と呼ばれる日で、針仕事を休んで道具に感謝する日です。
A.
折れた針、曲がった針、錆びた針など、使えなくなった縫い針を供養します。まち針やミシン針でも構いません。普段からピンクッションや小さな容器にまとめて保管しておくと、供養の日にすぐ準備できます。
A.
自宅で豆腐やこんにゃくに針を刺し、感謝の気持ちを込めて供養することもできます。供養後の針は紙に包んで不燃ゴミとして処分しましょう。気持ちを込めることが何より大切です。
A.
はい。裁縫に携わる人だけでなく、どなたでも参加できます。浅草寺淡島堂や淡嶋神社では一般の参拝者も多く訪れます。折れた針を持参して豆腐に刺し、感謝を捧げましょう。
A.
針供養は「事八日(ことようか)」と呼ばれる2月8日・12月8日の行事の一つです。この日は「事始め」や「事納め」にあたる節目の日で、針仕事を休んで物忌みをする日とされていました。一年の仕事を共にした針に感謝を捧げるのにふさわしい日として、供養が行われるようになりました。
A.
こと八日には「一つ目小僧」や「ミカリ婆さん」といった妖怪が訪れるという伝承が各地に残っています。これは「この日は外出を控え、静かに過ごしなさい」という先人の戒めが形を変えたものと考えられています。ザルやカゴを軒先に掲げて目の多さで妖怪を退散させるという、ユニークな魔除けの風習もあります。

CHAPTER 06
まとめ

針供養は、折れた針や曲がった針を豆腐やこんにゃくに刺して感謝と労いを捧げる伝統行事で、2月8日または12月8日の「事八日」に行われます。浅草寺の淡島堂や和歌山の淡嶋神社など、2月8日に行う寺社が多く、京都の法輪寺のように12月8日に行うところもあります。次回は2026年12月8日(火)と2027年2月8日(月)です。裁縫箱を整理して古い針に感謝し、子どもと一緒に「ものを大切にする心」を感じる日にしてみてください。